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猿飛は今まで当たり障りの無い返答を繰り返すのみだったが、羊子のこの質問。自身が発した『弱そうならやるっきゃない』という言葉で、ついに笑顔を貼り付かせた。

「勿論!」

そう発した猿飛の貼り付いた笑顔は変わらなかった。変わらなかったが確かに嬉々として人間を手にかける喜びを感じさせるような微妙な変化はあったかもしれない。その証拠に今までの質問の投げ合いを放棄し、羊子が女である事も構わず飛びかかった。

『来ます! 気をつけて、羊子!』

羊子の憑き神である未が叫ぶ。が、羊子の体はやはり恐怖に苛まれているのか、元々こういった喧嘩もどきに縁がなかったのか、思うように体を動かす事が出来ず猿飛の嬉々とした一撃を甘んじて受け入れてしまう。

「痛いっ!」

女にも全く容赦の無い猿飛の一撃はガスッと嫌な音を響かせて羊子の脳を揺らした。しかし、猿飛は何か納得がいかないのか、自身の憑き神に向き直り言葉を発する。

「なぁ、こんな殴ってるだけじゃ10分でカタをつけるなんて難しいと思うんだが!」

『いや、俺も呆気にとられてた。容赦ないのねお前』

自身の憑き神さえも引かせてしまうくらいの容赦の無さだった。殴り飛ばされた羊子は床にひれ伏し、痛みに耐えるように赤く腫れた頬に手を当てている。

「折角弱そうな相手に当たったんだ。殺るならとっとと殺る。それだけだろー?」

『う、うん。そうね。じゃあ回路を切り替えるからちょっと待ってちょ。その間に誠意をもって『奇跡』の業を使うと念じててくださいませ・・・』

あまりにも無感情な猿飛の問いに申はおののき、つい敬語を使ってしまうまでに引いてしまっていた。こうなればどっちが神か分からなかった。一方、ひれ伏した状態の羊子には憑き神である未が近寄り、その身を案じていた。

『大丈夫? 羊子?』

「う、うん。痛いけど平気・・・」

『羊子は戦いたくないの? 死ぬかも知れないんだよ?』

「戦うのは・・・、怖い。死ぬのも・・・、怖い」

羊子は頬の痛みと、恐怖心から遂に伏したまま涙を流した。

『次、申は魔法を使ってくる。羊子も魔法を使わないと、防ぎきれないよ?』

「でも・・・、怖いの。戦いたくないの・・・」

『・・・何も魔法は戦うためだけにあるんじゃないの。もとより私が貸す能力は―』

痛みと恐怖で涙しながら、未からの回路の干渉をも拒んでいた羊子に未は優しく諭しながらガチャンと羊子の回路を変え、その魔法を使えるようにする。

『守る力だから』

更新日:2010-10-30 04:06:24

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