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戦う方法

その者には見えていた―。

スペースの存在が、それが誰のスペースであるかが、言葉に変換され、視界を右往左往する様が。

当然、当たりたくない相手は意図的に避け、また、守りたい相手は意図的に介入する事が許されていた。

ほら、あと5歩。2時の方向に進もう。

あと4歩、あと3歩、あと2歩、あと1歩―。

守るべき人を死なせないために―、進もう。

最後の1歩を踏み込めば―世界が変わる―・・・。


「怖い・・・」

「怖がる事なんてないぜー、俺は人を殺すなんて考えた事ねーから」

対峙しているのは高安羊子と猿飛和也。授業終了のチャイムが鳴り響き、羊子が手洗いへ行くために席を立ち、廊下に出たところでいつも騒がしく、学園でも人気者の猿飛の声が近づいてきているのを感じた。そして、マズイと思った瞬間にはもう遅かった。世界は急激に色を失い、暗い紫がかった空間へと変化を遂げていった。

最初に説明を受けた式場でのときも羊子は一番怯えていた。急激な変化に体温が下がり、ガタガタと体を震えさす事しかできなかった。正直、あの時に皆で自己紹介をした事は覚えていたが、敵となる相手の名前や顔も、一握りにしか覚えていないほどだった。しかし、今対峙しているのはそのひょうきんな性格で学園でも人気の猿飛。羊子が知る一握りの参加者でもあった。これほど皆に顔を覚えられている猿飛と対峙してしまうという事は、己に覚悟が全く備わっていない証拠にも思えるが、事実、羊子に覚悟なんてものは無かった。何故なら―。

「でも、殺さなきゃ、死ぬかも知れないんですよね・・・?」

「その可能性も否定できんのよなー」

「だったら、あなたならどうしますか? 猿飛さん・・・」

「相手によんじゃね? 相手が弱そうならやるっきゃないだろうし、相手が辰とか強そうなやつならケツを真っ赤にして逃げるしかないと思うんよ」

ケツを真っ赤にして逃げる猿の物真似をしキャッキャと笑いながら、羊子の意味の無いとも思える問いに答える猿飛。しかし羊子は、そんな猿飛の行動に笑み一つ浮かべず、また質問を続ける。

「あなたの後ろに憑き神の申が見えます・・・」

「お前の後ろにも未が見えるぜ」

「私には敵意はありません・・・。ですがあなたはどうですか?」

「どうだと思うー?」

意味の無いような問答が続く中、猿飛は羊子の質問を質問で返す。その質問で羊子は一番聞きたかった言葉を投げかける。

「あなたにとって私は弱そうな相手ですか?」

更新日:2010-10-30 04:04:28

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