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開戦
―其れは唐突に始まった。
昨日の非現実的な現実にあった紫紺の空間に、2つの影が現れる。しかし、昨日と違うのは風景だけが紫紺である。という事。昨日は天も、左右も、地も、紫紺に覆われていて、現実にあったはずの椅子や壇上、さらには式場さえもなかったというのに、今は違った。下駄箱があり、廊下があり、扉があった。現実にあったものが、そのままの形でこの空間に現れている。現実と違うのは、本当に紫紺がかった空気だけだった。
そんな中に現れた2つの影は、戸惑いを隠せないまま向き合った。
「まさか、辰見かよ・・・」
「宇井・・・、虎児だったか」
―竜虎相見える!
時刻は午前の8時。辰見は、昨日に非現実的な空間を目の当たりにしたにも関わらず、普段と変わらない、いつもどおりの時間に登校していた。習慣なのだろう、辰見は小学校の頃からずっと数分違わず同じ時間に登校していた。根っからの真面目とは辰見のような人間を指すのかもしれない。そして真面目さに加え、日常に差異が出ようとも変わらないという神経の図太さも兼ね揃えていたようだ。
辰見はいつもどおりの時間に学校に到着した。普段ならすれ違ったりする人間すらまばらで、ましてやあの空間にいた者の顔など一度たりとも見たことなんて無かった。なのに、下駄箱から上履きを取り出した瞬間、世界が紫紺の闇に包まれていた。
その差異の原因は一人の男の仕業。自分の中の正解不正解をキッパリと決める事ができる男の仕業だった。昨日に起きた事を自分の中で正解である、現実であると決め付けた男は先手を取るためか、はたまたその空間に巻き込まれないように他者の行動を把握するためかは定かでは無いが、自分があの中の誰よりも早くに登校しようと考え、普段より数十分も早くに登校していた。
それが故の衝突。この時間なら誰もいないだろうという正解を立て、あまりにも周りを警戒せずに校門をくぐり、下駄箱まであと10メートルと迫った時、唐突に、何の前触れもなく、フッと空気が禍々しく変化した。
「やっぱり、マジだったんだな・・・」
「そのようだな」
少し、違った。
向き合ったのは2つの影。だが、戸惑っているのはその内の一つだけだった。状況の変化に揺さぶられているのは寅を守護神に持つ虎児だけ。辰見はこの状況の変化にも関わらず、その態度に違和感を感じるほど落ち着き払っていた。それは龍を守護神に持つ事の絶対的な自信の表れか。
「で・・・、やるのかよ?」
「どちらでも」
尋ねると同時にお得意の喧嘩スタイルの構えを取る虎児に対し、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま無防備を貫く辰見。その姿に虎児は段々と憤りを覚えていき、自分の中で『気に入らない奴』に認定してしまった。
―それが始まりだった。
昨日の非現実的な現実にあった紫紺の空間に、2つの影が現れる。しかし、昨日と違うのは風景だけが紫紺である。という事。昨日は天も、左右も、地も、紫紺に覆われていて、現実にあったはずの椅子や壇上、さらには式場さえもなかったというのに、今は違った。下駄箱があり、廊下があり、扉があった。現実にあったものが、そのままの形でこの空間に現れている。現実と違うのは、本当に紫紺がかった空気だけだった。
そんな中に現れた2つの影は、戸惑いを隠せないまま向き合った。
「まさか、辰見かよ・・・」
「宇井・・・、虎児だったか」
―竜虎相見える!
時刻は午前の8時。辰見は、昨日に非現実的な空間を目の当たりにしたにも関わらず、普段と変わらない、いつもどおりの時間に登校していた。習慣なのだろう、辰見は小学校の頃からずっと数分違わず同じ時間に登校していた。根っからの真面目とは辰見のような人間を指すのかもしれない。そして真面目さに加え、日常に差異が出ようとも変わらないという神経の図太さも兼ね揃えていたようだ。
辰見はいつもどおりの時間に学校に到着した。普段ならすれ違ったりする人間すらまばらで、ましてやあの空間にいた者の顔など一度たりとも見たことなんて無かった。なのに、下駄箱から上履きを取り出した瞬間、世界が紫紺の闇に包まれていた。
その差異の原因は一人の男の仕業。自分の中の正解不正解をキッパリと決める事ができる男の仕業だった。昨日に起きた事を自分の中で正解である、現実であると決め付けた男は先手を取るためか、はたまたその空間に巻き込まれないように他者の行動を把握するためかは定かでは無いが、自分があの中の誰よりも早くに登校しようと考え、普段より数十分も早くに登校していた。
それが故の衝突。この時間なら誰もいないだろうという正解を立て、あまりにも周りを警戒せずに校門をくぐり、下駄箱まであと10メートルと迫った時、唐突に、何の前触れもなく、フッと空気が禍々しく変化した。
「やっぱり、マジだったんだな・・・」
「そのようだな」
少し、違った。
向き合ったのは2つの影。だが、戸惑っているのはその内の一つだけだった。状況の変化に揺さぶられているのは寅を守護神に持つ虎児だけ。辰見はこの状況の変化にも関わらず、その態度に違和感を感じるほど落ち着き払っていた。それは龍を守護神に持つ事の絶対的な自信の表れか。
「で・・・、やるのかよ?」
「どちらでも」
尋ねると同時にお得意の喧嘩スタイルの構えを取る虎児に対し、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま無防備を貫く辰見。その姿に虎児は段々と憤りを覚えていき、自分の中で『気に入らない奴』に認定してしまった。
―それが始まりだった。
更新日:2010-10-07 02:22:18