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小説

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第1章 就活酒場

ジュウ、ジュウと肉の灼ける音が響き渡る――
赤坂の高級焼肉店。霜降りの肉。生ビール。
食いしん坊の僕にとってこれとない最高のシチュエーションだ。ただしこれが接待じゃなければのハナシだが。
某国から年に数回日本にやってくるお得意様のKさんは悪い人ではないのだけれど、少々気むずかしい人でヘソを曲げないようにいつも細心の注意を払う必要がある。要するに「少々面倒くさい人」だ。
今もカルビを頼んだら骨付きじゃないのが出てきたのが気にくわないらしく、口には出さないがあきらかにおむずかりのご様子。

ナプキンで口を拭い、紙のエプロンを外すKさん。
「もう召し上がらないのですか?」
「ええ。もう結構」
なんだよ。こっちはまだろくに肉食ってねーぞ……。
「ところで」
「はい?」
「友人から面白い店があると聞きました。とても楽しかったそうです」
そう言ってKさんは店の名刺を僕に差し出した。
最近購入したiPhoneで早速店の場所を調べる。六本木のキャバクラだ。ここからタクシーで10分程度か。
時間は午後11時半すぎ。微妙な時間だが、まぁ、キャバクラだったら風営法の取り締まりもゆるいはずだ。
「そうですか。では行ってみましょう」

高級焼肉店を出て六本木に着いたのが12時過ぎ。
目当ての店は外堀通りを挟んでミッドタウンの向かいの飲食店が何軒か入っているビルの5階にあった。
エレベーターに乗り込み5階でドアが開くと暗がりの中に執事の格好をした女性が立っていた。髪を後ろで束ねてサムライ・ウーマンといった感じだ。
その彼女が僕らを見ると深々と頭を下げてこういった。
「申し訳ございません。本日は閉店でございます」
「マジっすか? 随分早いな……」
「近頃、当局の締め付けが厳しくなってきておりまして申し訳ございません」

マジかよ……。
「どうしました?」とKさん。
「いや、今日はもう閉店だそうです」うわ、いきなりおむずかり顔になった。
「本当ですか? なんとかもう少し営業時間を遅らせることができませんか? ワタシのために」
無理だって。ってか何様だアンタ! マイケルか!

おむずかりのKさんをなだめつつビルから連れ出すとさっきまでの街の喧噪がかなりトーンダウンしているのがわかった。
「フツウノミセ、モウヤッテナイネ」呼び込みのブラザーが話しかけて来る。
しかし彼の知っている店はいわゆる「Bottakuri」であろうことは間違いないだろう。
「今日はどこも店じまいみたいですね。どうしましょうか?」
おむずかりのKさんにそう言いいながら心の中で「ホテル! ホテル! さっさとホテル! もーどーれー!」と念じてみる。
「うーん……。他にやってる場所はありませんか?」
うわー、マジで……。意地でも行きたいんだな、キャバクラ。
「もうありませんね」と言うこともできたが、僕はここで賭けに出てみることにした。
タクシーを拾って運転手さんに開口一番「歌舞伎町!ソッコーでお願いします」

更新日:2010-02-16 19:23:59

潜入! リクルートスーツキャバクラ