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出会い

 大陸のに数々の異変が起き始めたのは今からおよそ15年ほど前である。緑と水とに彩られていた世界が徐々に荒野へと変貌し、度重なる戦乱はその大地に住む人々の心に恐怖と憎悪を植え付け、生きることへの希望を奪っていった。
大地はあれ、人々は絶望を胸に抱え、世界は破滅へと向かうように思われた…

 空を覆う鉛色の雲の隙間から、わずかに差し込む光が細く少なくなり、太陽が西の空へと消え始め、夜の闇が辺りを包み始める。町の路地は仕事を終えた男達や家に帰る子供達で騒がしく、明かりの灯った家々からは、食欲をそそういい香りが漂ってきている。旅人はその香りに誘われる様に、一件の店屋の前で足を止めた。すでに店の中からは賑やかな声が聞こえている。旅人は、古びた分厚い扉を押し中へと入った。
 中に入ると、すでにいい気分になった男たちが、酒の入ったグラスを片手に大騒ぎをしている。旅人はカウンターにそっと腰掛け、マントのフードを脱いだ。旅疲れした汚いマントの下は、色白の実に美しい顔立ちである。顔半面を覆う長く伸ばした前髪が、さらに妖艶さをかもしだしている。
「よう、あんた兄さんでいいんだよな…」
体格のいい店主が近づいてきて、自信の無い様子で問いかける。
「ご想像にお任せするが、一緒に食事をするのも、湯に浸かるのも、床に入るのも女の方が好ましいと思っている。」
店主は豪快に笑うと、品書を男の前に差し出した。
「気に入ったぜきれいなあんちゃん!ここは宿も取れるし、ゆっくりしてきな」
そういうと、店主は他の客の所へと料理を出しに向かった。男は店主が置いていった品書きを手に取った。すると、背後から一人の女が声をかけてきた。
「あんた、見ない顔だね。旅の人買かい?」
声に振り返ると、長い栗色の髪をきれいに束ね着飾った、細身の美人がたっていた。
「まあそんなところだが、君はここの人かい?」
男はそう答えると彼女に微笑みかける。女は大またで近づいてくると、おもむろに隣の席に腰を下ろした。
「そうだよ。」
女は酒場の女らしく快活に答える。
「しっかし、あんた綺麗な顔してんじゃないの、その顔でいったい何人の女泣かせたんだい?」
「よく同じようなことを聞かれるが、綺麗な君の泣かせてきた男の数にはかなわないさ。」
その場がしらけてしまいそうな気障なせりふだが、その男が言うと不思議と気にならない。
女は、歯の浮くような言葉にこらえきれず、笑い出す。
「あんた、なかなか言うじゃない。ねぇ、何か決まったの?」
女はそう聞くと、男の手にしている品書きを除き込んだ。
「こうしてあったのも何かの縁だ、今日はあたしがおごるよ。任せときな。」
女は大きく手を振ると、店主に声をかけた。
「親方!こっちに麦酒一瓶と何かつまみになるようなもの適当にこしらえて持ってきておくれよ!」
「あいよ!」
威勢の良い返事と一緒に、彼らの前に酒瓶とグラスを持って店主がやってきた。
「つまみは今作るから待ってな。おいリカルドこっち頼んだぞ!」
「はーい親方!」
店主は少年にカウンターを任せると裏の台所へと消えていった。
女は酒瓶の栓抜きグラスに注ぎ始めた。
「あたしはカメリア、あんたは?」
「ウラレンシス・・・」
「ウラレンシス?古典語で梟か・・・良い名前だけど、あんた、梟って顔じゃないね。」
カメリア小さく笑った。
「そのマントだいぶ草臥れてる様だけど、なんでこの物騒な世の中一人で旅なんかしてんのさ?あんたみたいな綺麗な顔してりゃ、わざわざ危ない目にあわなくても、その気にりゃ貴族の馬鹿女どもに取り入って、贅沢三昧の生活ができるだろうに?」
いたずらっぽく問いかける彼女のにウラレンシスはグラスを差し出す。
「残念ながら、゛その気に゛ならなかったものでね。さあ、二人の出会いに・・・」
二つのグラスが触れ、心地よいかすかな音が響いた。
「ここはずいぶんにぎやかだな。」
旅の途中いくつもの町や村を通り過ぎたが、度重なる戦乱に怯えどの街も廃墟に近い状況であったが、この街は若干違う。夕暮れの街には人々の声が響き、酒場や有楽街若干の賑わいを見せていた。

更新日:2009-11-18 08:35:12

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