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「パチュリー、起きろー」
 もう一度声をかけてみる。布団がもそりと動き、その端から白く小さい手が見えた。と、気づいた瞬間だ。

「……うるさい」

パチュリーの指先が白く輝いたかと思うと、そこから数発の光弾が突然吐きだされた。
「ぅおお!?」
 社は咄嗟に、眼前に防壁を出現させた。いつもと変わらない見た目の透明の防壁が紙一重で光弾を受け止め、しばし拮抗する。だが出力が安定しない。ガラスが砕けるような音を立てて、障壁が砕け散り消えた。
「――っと」
 一瞬光弾が動きを止めた隙に、社は何とか身をかわす。光弾はそのまま天井に命中するが、天井に傷がついた様子はない。天井が丈夫だったのか、パチュリーの放った弾が天井を傷つけないようになっていたのかどちらかだろう。
 それはそうと、相変わらずパチュリーが起きてくる気配はない。
「……咲夜さんが嫌がるわけだ」
 顔を引きつらせながら呟く社。今しがた力を使った名残が、自分の中にあるような感覚があった。敢えて例えるなら、妙に不安定にたゆたう熱い液体のようなものが、体の中にあるようだ。おそらくはこれが魔力なのだろうが、少なくともまだしばらくは安定する気配はない。
どうやってパチュリーを起こしたものかと思案していると、ちょうどよく小悪魔が姿を現した。
「御剣さん、何していらっしゃるんですか?」
「ああ小悪魔さん、いいとこに来た」
 怪訝そうな顔をする小悪魔に、社はほっとした顔で言った。
「いや、パチュリーを起こすように言われたんだけど、声かけたら撃たれてさ。危うく死ぬかと思ったよ」
「あぁ~、やっぱり御自分じゃお起きになりませんでしたか……」
 恐らく同じ目に遭ったことがあるのだろう。小悪魔が同情に満ちた目で社を見てきた。彼女は苦笑いを浮かべつつ、社に言う。
「寝ぼける余裕がなくなるくらい一気に起こさないと、命が幾つあっても足りませんよ」
「うわぁ……」
 思わず呻く社。小悪魔は彼に小さく手を振ると、一歩退きつつ言った。
「それじゃあ御剣さん、パチュリー様をよろしくお願いします」
「って、ちょ待、手伝……」
 バタン!
 ご丁寧に、扉まで閉めて行ってしまう小悪魔。残されたのは、眠り続けるパチュリーと途方に暮れる社の二人だけだ。
「……で、どうやって起こせって?」
 呟くが、当然答える者などいるはずもなく。仕方なしに、社はどうやってパチュリーを安全に起こすか思案する。掛け布団を剥ぐのもひとつの手だが、安い小説なら大抵は事故が起こるフラグだ。第一、小悪魔や咲夜がそれを試みなかったとも思えない。となれば、取るべき手段は少ない。
「仕方ないな……とりあえず頑張るか」
 社は、扉を半開きにするとベッドの前まで戻り、両手を口の周りに当てると同時に、すぐにでも逃げ出せる体勢を整えた。大きく息を吸い、
「パチュリー! 起きろ――ッ!!」
 叫ぶと同時に、社は扉に向かって全力疾走する。扉を潜った瞬間に、背後で何かが崩れる音がした。

 結局、同じことを三回繰り返し、ようやくパチュリーを起こすことに成功した。

更新日:2009-12-18 19:34:47

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