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第六章 紅の館

■ ■ ■ ■ ■

 さて、社がスキマを潜りぬけると、そこは両脇を壁に囲まれた廊下だった。足元には深紅の長いカーペットが敷かれている。見える範囲で、いくつか扉があるのが確認できる。
「……え?」
 それを確認し、社は思わず呟いていた。
「え、いやいや何で屋内? あり得ないでしょこれ。いきなり屋敷の中に入ってきた不審者に手を貸す馬鹿がいるわけないもの。紫さんがそんなことに気づかず出口を開くわけないもの」
 と、ひとしきり言いつつ振り返ると、そこにはやはり廊下が続いている。彼をここへ送り届けたスキマはすでに消え去っていた。
「……あのバ……」
 思わず言いかけ、社は咄嗟に口を噤む。どこで紫に聞かれているか分かったものではない。
それはそうと、この先どうしたものか。まず人に見つかるべきなのか否かから悩んでしまう。
「とはいえ、誰かに会わなきゃ話にならないよなぁ……」
 そうぼやき、社はとりあえず目の前の廊下を歩き始める。なるべくなら話の通じる人に会いたいものだが、果たして上手くいくことか。とりあえず知覚子を撒いてみようかと、社が考えたその時だ。
 奥の曲がり角の先から、一人の女性が現われた。白と紺のエプロンドレスと、ショートの銀髪。ここが紅魔館であることを考えれば――
 と社が思考した瞬間、彼女の姿は掻き消え、社の周りには無数のナイフが出現していた。
「っと!」
 だが、そういった事態を想定していなかったわけではない。社はすぐさま自身の周囲に防壁を展開。一斉に社へ殺到したナイフは、全てその壁に阻まれた。それを確認してから、社は右後方を振り返る。先ほど見た女性が、幾本ものナイフを手に佇んでいた。
 紅魔館のメイド長、十六夜咲夜(いざよい さくや)だ。
「……挨拶もなしに攻撃か。怖い怖い」
 社は笑みを浮かべて言ってみる。咲夜もまた、微笑を浮かべて社に言った。
「あら、貴方こそ挨拶もなしにこの館へ踏み入って、まさか無事に帰れるつもりじゃないわよね?」
 表面上、攻撃を防がれたことに対する動揺はないようだ。いつでもナイフを投げられるよう、僅かに手首を内側へ引いて機を窺っている。だが、社は咲夜に対して両手を上げつつ話しかけた。
「自分でも突然中に入ってくるつもりはなかったんです。それについては謝らせてください」
「あら、じゃあ誰かの手引きでここへ来たとでも言うの?」
「ええ」
 構えを解かぬまま、社に問いかける咲夜。社は彼女に頷き、手に持っていた書簡を咲夜に差し出した。訝しみながら、それを手に取る咲夜。
 封を開け、中を確認しようとしている咲夜に、社は言葉をかけた。
「オレは、八雲紫さんの手でここへ送られてきました」
「!?」
 途端に、咲夜の顔が強張る。書簡にも目を通し渋面を作ると、咲夜は封筒の中に折りたたんだ手紙を戻し、それを社に返しながら口を開いた。
「申し……」
「その決断をするのはあなたじゃない」
 だが、咲夜が言いきるより早く、社はそう言った。再び咲夜の表情が苦くなる。社は彼女に笑みを向け、尋ねた。
「違いますか? メイド長の十六夜咲夜さん」
「……いいえ、その通りですね」
 咲夜はため息をついたあと、ナイフを懐に仕舞いながら答える。そうした後、彼女は社に向き直り、言った。
「では、こちらへ。紅魔館の主、レミリアお嬢様の元まで案内します」

更新日:2009-12-11 16:57:16

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