• 54 / 186 ページ

第五章 踊り躍る鋭刃

■ ■ ■ ■ ■

「随分と優しいのね、自分の首を絞めるのも構わないなんて」
 八雲家に着くなり、紫は社に向かってそう言った。対する社は苦い表情で、
「自分でも後悔してますよ……」
 と呻く。
 今、社と紫、それに藍は、家の中にある居間に座って話していた。藍がしばらく動かないことを悟って、橙は近所へ遊びに出てしまったようだ。
社の答えに、紫は笑みを浮かべたまま口を開く。
「まあいいわ、私には直接関係のないことだし」
 そう言って、扇子を開いて口元を隠すようにする紫。彼女は社に目を向けたまま問いかける。
「それで、貴方はどうしたいのかしら? 力を貸すとは言ったけれど、貴方がどういう形での助力を望んでいるのか分からないのでは、手伝いようがないわよ?」
 それに、社は軽く思案する。たが、ある意味答えは既に決まっている。
自分の能力は近距離でしか大きな力を持たず、主な戦い方は武器を使った近距離戦。となれば、教えを請うべきは紫ではない。
「なら紫さん、魂魄妖夢に教えを請うことができるよう取り計らっていただけますか?」
「ふふ、やはりそうするのね。少し待って頂戴。今呼ぶわ」
 社がそう言うことは、紫にとっては予想通りだったらしい。ひとつ頷くと、紫は虚空に生んだスキマにその身を潜らせ、その奥に声をかけた。
「幽々子、ちょっといいかしら?」
「あら紫、久しぶりじゃない」
 スキマの向こうから、別の女性の声が聞こえる。紫の言葉通りならば、相手は冥界の管理人にして白玉楼の主たる亡霊、西行寺幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)だ。
「少しこちらで用があってね、しばらく妖夢を貸してもらえると嬉しいのだけれど」
「え~」
 紫の言葉に、しかし幽々子は渋る気配を見せている。
「やーよ、私が食いっぱぐれるじゃない」
「藍を貸すわ」
「それならよし」
 随分短絡的な解決だ。
「まあ、貴方がわざわざ妖夢に用があるなんて、ちょっと普通じゃないものね。どういう事情かしら?」
 幽々子が紫に問いかける。
「用があるのは私じゃないわ。拾ってきた外の人間が、妖夢に剣術を習いたいんですって」
「あら、それは面白いわね。でも妖夢の教えについていけるかしら?」
「それは私が気にすることではないわ。私が勧めたわけではないしね」
 紫は幽々子に答えると、もう二言三言交わした後、スキマから身を引きぬいてそのスキマを閉じた。

更新日:2009-12-05 12:16:18

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

東方二次創作 ~ 人工知能が幻想入り (創作祭出展作品)