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第四章 不覚と決別の道

■ ■ ■ ■ ■

 ちょうど早苗が社を探して守矢神社を飛び出した頃、社はそこからかなり離れた人里の中を低めに飛んでいた。初めは歩こうかとも思っていたが、体力は温存したかったし歩きの方が速度も落ちることに加え、今はまだ人通りがないので、しばらくは飛び続けることにしたのだ。もっとも、案外人が見ても何も言われないかもしれないが。空を飛ぶ人間というのはどの程度珍しいのだろうか。
 当面、向かう先は紅魔館だ。何せ、幻想郷の要所の中でも場所が分かるのはそこと守矢神社くらいしかない。とはいえ、来た道をそのまま取って返すと、そこらへんの妖怪にあっさり喰われる可能性がある。よって、可能な限り人里を通って紅魔館へ向かうのが現在の目的となっていた。
 と、そんな折。いくらか先の家の陰に、人らしき気配を感じた。知り合った人の気配は何となく区別できるが、その気配は今までに会った誰のものでもない。さすがに地面に降りるかとも一瞬考えたが、次の補給がいつになるか分からない以上、体力はギリギリまで温存したい。結局、社は宙に浮いたまま、その家まで辿り着く。木造の小さな家だ。
 果たして、そこにいたのは――
「……橙?」
「はううっ!」
 ぽつりと漏らした言葉に耳を立てて反応したのは、焦げ茶色の髪の少女。その頭には猫のような耳、体には猫の尻尾が二本生えている。見た目は十代前半から半ば。
 間違いない。大妖怪の式神の式神、橙(チェン)だ。
「お、お前、何者だっ!!」
 素早く飛び退くと、橙は社に向かって構えをとる。それに社は慌てて両手を小さく上げて、
「ちょ、ちょっと待った。怪しい人間じゃないから」
 と弁明し、直後にその返答自体が怪しいことに気づいた。社は何とか口を開いて続きを言う。
「オレは外の世界から来たんだけど、その前に少し幻想郷について勉強してね。その時に君のことも知ったんだ」
「…………」
 橙は社を疑うような目つきで睨んでいたが、やがて興味を失ったかのようにプイっと顔を背けると、地面にしゃがみ込んでしまった。何となく、何かを探しているようにも見える。
「何か探してるのか?」
 社が再び声をかけると、橙もまた肩を震わせて振り返り、威嚇するような目つきで吠えてかかる。
「これ以上私に構うようなら、容赦しないよッ!!」
 フーッと言いつつ、尻尾も真上に立てて威嚇体制をとる橙だが、いかんせん迫力はあまりない。社はどうしたものかと思案しつつ、橙の全身を改めて眺め――

更新日:2009-11-30 17:04:41

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