• 16 / 186 ページ

第二章 神住まう地

■ ■ ■ ■ ■

「ふぅ、もう秋も終わりですね」
 場所は守矢神社。境内で竹箒を持ち、落ち葉を掃く者が一人。現人神にして、外の世界からやってきた風祝の少女、東風谷早苗(こちや さなえ)だ。
 白のシャツと青のスカート、そして裾の青い袖だけが独立したような、不思議なデザインの巫女服を纏っている。肩より下まで伸びた緑の髪には、蛙と蛇の髪飾りがついている。この神社に祀る、二柱の神の象徴だ。
 落ち葉を境内の隅に集め終わると、早苗は小さく息をついた。せっかく集めたのだから、おそらく社務所にいるであろう二人を呼んで、芋でも焼こうかと考えたときだった。
 ざああああっ
「! ……っとと」
 風が吹く。突然の風は、早苗の足元の落ち葉を山を吹き飛ばしかけ、早苗はそれに慌てて落ち葉を箒で押さえる。
 果たして、短い突風が収まると、境内には二つの影が現われていた。一人には見覚えがある。天狗の射命丸文だ。だが、もう一人の男の方には心当たりがない。膝に手をつき、疲れた様子でうなだれている。早苗が声をかけるべきか迷っていると、先に文が男に話しかけた。
「到着ですよ社さん。思ったより遅くなってしまいましたね」
「……あんたの全速を基準にしないでください……」
「まあ無事に着きましたし、よしとしてください」
「……無事の定義が気になりますが、まあいいでしょう」
 何とか身を起こす、社と呼ばれた男。文は彼に片手を上げつつ、
「それでは、私は別の仕事があるので。取材の件、忘れないでくださいよっ」
 と言うと、さっさと飛び立ってしまう。
「お世話になりました~」
 手を振りつつ言った男の言葉が届いたかどうか。すぐに文の姿は小さくなって見えなくなってしまった。境内に残されたのは、早苗と男の二人。
「……さて」
 呟くと、男は早苗に振り返る。思わず身構える早苗。登場の仕方からして、ただの参拝客という雰囲気ではない。となると、何らかのトラブルの種という可能性が高いのでは、と疑わずにはいられなかった。

更新日:2009-11-21 21:41:22

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

東方二次創作 ~ 人工知能が幻想入り (創作祭出展作品)