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第十章 社異変

■ ■ ■ ■ ■

「…………」
 早苗の出現に、揃って言葉を失う社と神奈子。神奈子は足をふらつかせて一歩下がり、社は膝をついた体勢から立ち上がれないでいた。
 とんとん。
「おーい、社。大丈夫?」
 と、そこで社の肩を叩く影。諏訪子だ。彼女は社の左手を勝手に取ると、彼の体を引っ張りあげた。何とか立ち上がり、社は諏訪子に目を移して尋ねる。
「諏訪子さん、東風谷さんは……」
「んー、社に頼りにされたのがよっぽど嬉しかったらしいよ?」
 だが、社が言い切るより早く、諏訪子が答えた。彼女は不安など見当たらない笑顔で、神奈子と対峙する早苗を見つめている。
「んな阿呆な。第一、だからって神奈子さんを敵に回すようなことをしますか?」
「社、早苗が今言ったでしょ?」
 暗に「諏訪子がけしかけたのだろう」と問う社に、諏訪子が少しだけ膨れた顔を向けつつ言った。
「早苗にだって、自分の考える正義ってものはあるの。それが神奈子のそれと食い違ったら、あの子も黙って神奈子の言いなりになんかならないよ」
「…………」
 その言葉に、社はそれ以上尋ねることができなくなってしまう。どうやら、自分が思っていたほど早苗は弱くはないらしい。そんな社の様子に、諏訪子は小馬鹿にするような笑みを浮かべ、
「それともひょっとして本当に早苗が、社と神奈子の間で板挟みになって、何もできないような子だって思ってた? ちょ~っと早苗を見くびりすぎたんじゃない?」
 と問いかける。社はそれに苦い顔でそっぽを向いた。

 一方で、早苗は衝撃を受ける神奈子に、まっすぐ目を向けていた。神奈子はなおも視線を揺らしながら、それでも早苗に問いかける。
「……早苗、御剣が何者か、お前は知ってるのか?」
 その言葉に、早苗は頷きつつ、
「はい、諏訪子様にお聞きしました」
 と答えた。それに、神奈子はますます訳が分からないといった様子で問う。
「それなら、どうして邪魔をするんだ? そいつが如何に危険か、分からないわけじゃないだろう!?」
「――神奈子様、私もひとつ聞いてもいいですか?」
 神奈子の言葉に、しかし早苗は答えようとはせず、逆に神奈子に尋ねた。
「神奈子様は、社さんが幻想郷へやってきたことを、言わば一つの異変だと考えてらっしゃるんですよね?」
「……? まあそう言うこともできるだろうが……」
 早苗の意図が読めず、曖昧に返事をする神奈子。早苗は、その答えに笑みを見せ、言った。

更新日:2010-01-09 22:21:38

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