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 神奈子が境内で、文と話している。二人は幾つか言葉を交わすと、文は手を振りつつ何処かへと飛び去っていった。その様子を見て、諏訪子は神奈子に近づき、尋ねる。
「社が見つかったの? どこだって?」
「ん、あぁ。諏訪子か」
 神奈子は諏訪子に振り返ると、口元に笑みを浮かべて答えた。
「ああ。紅魔館だそうだ。私もすぐに行ってくるよ」
「もう? せっかちだねぇ」
「天狗に居場所が割れたと気づけば、奴もまたすぐに動くさ。せいぜい天狗には奴を燻りだしてもらって、始末は私がつけてくるよ」
 神奈子はそう言いつつ、文と同じ方向へ飛び立とうと構える。そこに、諏訪子が問いかけた。
「本当にやるの?」
 少しだけ真面目な声音の諏訪子に、神奈子もまた、再び諏訪子に向き直ると、彼女の目をまっすぐ見つめ、答える。
「ああ、御剣は始末する。もう決めたことだ」
「……それは、社が幻想郷にとって危険だから? それとも早苗を泣かせたから?」
「……さあな」
 最後の問いに、神奈子は答えを出さぬまま空へ飛んだ。次第に遠ざかる背を見送りつつ、諏訪子はぽつりと呟く。
「分かってない振りなんかしちゃって。大事なものはひとつだけのくせにさ……」
 そして、後ろにくるっと振り返る。二人の様子を窺い見ていた早苗が、社務所から姿を現し、諏訪子の元へ駆けてきた。
 神奈子が動き出すまで、あれからもしばらく落ち込んだふりを続けて今日まで来たのだ。全ては、社が姿を現し、神奈子が彼の元へ向かうのを待つために。
「諏訪子様、やっぱり神奈子様は……」
「うん。社のところに行った」
 早苗が言いきるより早く、諏訪子は答えを返す。予想していたこととはいえ、辛そうな顔を見せる早苗。だが、諏訪子はそんな彼女に問いかけた。
「それで早苗、本当にやる?」
「…………」
 その問いに、しばし黙り込む早苗。だが、意を決した様子で頷くと、
「はい。私は……社さんを助けてみせます」
 と答えた。だが、握り込んだその拳も、肩や膝も震えていたことを、諏訪子は見逃さなかった。当然だ。形はどうあれ、早苗はこれから神奈子に反旗を翻そうとしているのだから。
 その震える早苗を見て、諏訪子は小さく息をつくと、早苗の肩に手を置き言った。
「よし、じゃああたしもついていくよ」
「え、諏訪子様もですか?」
「うん。早苗一人だと不安だしね~。あ、でも大事なことはちゃんと自分でやるんだよ」
 笑顔で頷く諏訪子に、早苗もまた笑顔を返す。心強い同行者を得て、早苗の震えも少し収まった。
「分かりました。それじゃあ、よろしくお願いします、諏訪子様」
「はいはーい。それじゃあ、早く行こうか」
「はい」
「あ、ちゃんと戸締りはしてってよ。今日はみんなでお出かけなんだから」
 諏訪子の言葉に、早苗は少しはっとした様子で社務所の戸を見た。
 確かに、全員が同時に外出するなんてことは、これまで数えるほどしかなかった。しかも今回は、神奈子と早苗たちの目的が完全に逆なのだ。当然ながら、今までにない経験だ。不思議な感慨を覚え、早苗は意識せぬまま胸に手を当てた。
「……今度は、ちゃんと四人で戻ってきますから」
 口中で小さく呟くと、早苗は玄関の鍵を閉めるべく、社務所に駆け足で戻っていった。

更新日:2009-12-23 19:08:31

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