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ありがとうの心

一『くらい』

 ここはどこだろう……。
 私はだれだろう……。
 暗い……。暗いがなんなのか、私は知らないけれど、きっとこれが『くらい』なんだとおもう。
 押し潰されそうなもの、それがきっと『くらい』なんだ。
 でも、今にも押し潰そうとされている、私はいったいなんなのだろう。
 『くらい』よりもきっと小さくて、臆病でひ弱い存在に違いない。
 このままきっと飲み込まれて、『くらい』の仲間になるんだよね。
 『くらい』の仲間って、みんな私みたいなのかな? 私よりももっと小さいのかな?
 それともみんな私より大きくて、小さくて臆病でひ弱な私を『くらい』から助けてくれるのかな。
 ねえ、『くらい』、私はあなたよりも小さいの?大きいの?
 『くらい』は、『くらい』以外の何かを知ってるのかな? 私の知らないなにかを。
 私は『くらい』のことを良く知らないけれど、『くらい』は、私より私のことを知ってるんだよね。
 教えてほしいな、私のこと

 一ノ一 

「ねえ、そろそろ帰りなさい?」
 顔見知りの看護婦さんが、俺に声をかけてくれた。
「すいません、でも面会時間いっぱいまでは居たいんです」
 看護婦さんはため息をつくと、「体を壊さないようにね」と労って病室を出て行った。
(いつも心配かけてごめんなさい)
 俺は心の中で謝罪すると、目の前のベットの女の子に話しかけた。
「あの人には、心配かけさせてばかりで、ホント頭があがらないな。」
 彼女の顔を見てると、いつも自分が見透かされてるような感覚になる。おもわず照れ隠しに苦笑いをしながら、頭をかきむしった。
「そういえばさ、高校の時にいたじゃん、同じクラスの……名前なんだっけ? まあいいや、そいつが今度結婚するんだってさ。いきなりだぜ? しかも相手は十五も離れたおっさんっていうから2度びっくり!」
 俺は、彼女の手をキュッと軽く握る。ここにいる時は、いつも手を繋いでいるようにしている。ご飯食べる時も、眠くなった時も、トイレにいくときは……さすがに離すけど。
 もしかしたら、ほんの一瞬だけでも、俺の手を握り返してくれる時がくるかもしれない。
 そんな時、必ずもう一度握り返して挙げたいのだ。

更新日:2009-11-06 20:19:02

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