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3.夏

 理子は増山に言われた通り、苦手な理数系において、
とことん担当教師に食らいついた。どの教諭も、理子が思って
いた以上に熱心に教えてくれた。特に数学の石坂周司は、
とても親切だった。背が高く細身でスラッとした優しい面だちの、
中年の男性教諭で、静かな人気があった。理子もこの教師には
憧れの気持ちを抱いている。奥さんは、元教え子だったらしい。
 この教諭は普段の授業も親切で、わかりやすかった。去年の
数1の教師とは大違いである。それでも、どうしても引っかかる
所が有って理解できない。そこを何度も何度も訊いた。その
甲斐あってか、期末テストでは、理数系が驚くほど解答できた。
中学以来である。久し振りの手ごたえだった。理数系程、問題が
解ける時の手ごたえを感じるものはない。この醍醐味が、
さらに勉強に拍車をかけるのだ。
 テストが終わって、解答用紙が次々と戻ってくるのが楽しみ
になった。一生懸命やった事が、結果として明確に現われて
いるのが嬉しくてたまらない。文系はこれまで通りの好結果
だったし、理数系もそれに追い付いてきた。成績も一挙に上がった。
 増山とは、あれから二人きりになる事は無かった。合唱部
の部活の後、なるべく弾き語りはせずに、すぐに帰るように
していたからだ。

更新日:2010-07-17 23:30:56

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