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第十五話 決壊


彼女がゆららを呼びに行ってしまったので、俺は部屋に一人取り残されてしまった。
暫くすると、ドアをノックする音が聞こえた。
ドアから顔をのぞかせたのは、ゆららだった。

「ごめんね、久遠。きらら、コンビニに行っちゃったんだよね?
 だから、私が送って行くから。道、分かんないんでしょ?」

えっ!?
俺、道分かんないとか、言ってないけどっ!?
もしかして、きららちゃんが気を利かせてくれたのかな?
…でも正直、今は彼女と二人きりは気まずいんだけど。

「…そっか。ありがとう、ゆらら。」
俺は少し途方にくれながらも、無理矢理感謝の言葉を捻り出した。

それから二人で、駅までの道を歩いた。
その間、俺も彼女も殆ど口を聞かなかったし、心の鍵を閉じていたので、お互い何を考えているのかも全く分からなかった。

さっきの彼女の様子から思うに、嫉妬してくれたとか考えるのは、止した方がよさそうだ。
…もしかして、軽蔑されちゃったとか?

初対面の女の子とすぐにキスするような奴、ゆららみたいな純粋な子にしたらきっと、許せないに決まってる。
キスなんか初めてじゃなかったし、された事自体はたいして気にもしてなかったけれど、彼女に嫌われたかも知れないとなると話は別だ。

ただでさえ俺が一方的に気持ちを高めてるだけなのに、これはかなりきついな…。
まぁ、だからといって、きららちゃんを責める気にはなれないんだけど。
俺も逆の立場だったら、彼女と同じ事していたかもしれない。
あの子と俺は、怖いくらいにそっくりだから…。

そんな事を考えていたら、気が付くと駅に到着していた。

「…じゃあ、またね。」
彼女は小さく、呟くように言うと、俺に手を振った。

「ああ。じゃあ、また。…今日は、ありがとう。」
俺も漸くそれだけ言って、彼女に手を振った。

俺は彼女の言葉に、心底ほっとした。


『…じゃあ、またね。』


彼女は、そう言ってくれた。
もう逢いたくないと言われるんじゃないかと思い、とても不安だった俺には、それだけの事がとても幸せに思えた。

俺は能力を制御する術を、どんどん身に付けてきている。
もうすぐ俺は、彼女の側にいる事の出来る理由を失う。
その時俺は、一体どうしたらいいんだろう?
彼女にもう、必要ないでしょうって言われたら、俺は…?

更新日:2010-07-13 13:34:03

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