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第十二話 嫉妬

きららがドアを開けた時、私の心の鍵は驚いた拍子に勝手に開いてしまった。
そしてその瞬間、私は久遠の頭の中に、勝手に侵入してしまったみたいだ。

『なんか、想像していたタイプと違うな…。
 双子だって聞いていたから、彼女にそっくりな女の子を想像してたけど。
 それに、性格もゆららと違って、かなり積極的みたいだし。
 …それにしても、綺麗な子だなぁ。』

久遠の心の声が、私の頭の中を駆け巡る。
私は慌てて、心の鍵を締め直した。

やっぱり、久遠もそうなんだね?
…こんな心の声、聞きたくなかったよ。

私は泣きたい気持ちになったけれど、必死に我慢をして、平気な振りをした。

「はじめまして。…君がきららちゃん?」
久遠はそう言うと、きららに向かってにっこりと微笑んだ。

「うん。ゆららから、話は聞いてるよぉっ!
 これから、よろしくね♪」

きららも、これ以上は無いというくらいの笑顔で答える。

「何よっ!二人とも、つまんないのっ!
 なんで心に鍵、掛けちゃってる訳っ!?」

きららがつん、と唇を尖らせ、言った。
それから彼女は、私と久遠が向き合って並ぶ右横の、空いている場所に座った。

なんてお似合いな、二人なんだろう?
二人で並んでいると、その姿はまるで一対の彫刻の様に綺麗で。
…その場に一緒にいると、自分だけが全く異質な存在の様に思えた。

「…私、お茶淹れてくるね。」

本当は悲しい気持ちに押し潰されそうだったけれど、無理矢理作り笑顔を浮かべ、言った。
正直もうこれ以上、彼らの姿を見たくはなかった。
そして私は、部屋を後にした。

キッチンに向かうと、私は紅茶を淹れるため、やかんを火にかけた。
それから私は、漸く心の鍵を解放した。

なんでこんな能力を、持って生まれてきちゃったんだろう?
…彼の気持ちなんて、聞きたくはなかったのに。

驚いた拍子に心の鍵が開いてしまった時などに、それは時折起こる。
心の鍵を閉じている人間の頭の中にまで、勝手に侵入してしまうのだ。

『これは良くない事だから、絶対にしてはいけないよ。』

記憶の中のおじいちゃんの声が、私に向かって言った。
わざとじゃなくても、先程聞いた久遠の心の声が、私の心に鋭い棘となって突き刺さる。

…だからきららにだけは、久遠を逢わせたくなかったのよ。

きっと久遠も、彼女に恋をする。
もしかしたら、既に彼はきららに心奪われているかもしれない。

しかも、きららも久遠のことを、これまでにない程興味を持っていた。
彼女の表情からも、それは心の中を覗き見るまでもなく、伝わってきた。

…なんで私は、きららと双子なんだろう?

私は、今までにない程その運命を呪った。
生まれて初めて、きららのことを疎ましく感じた。
…きららは、決して悪くなんてないのに。
そして、こんなに醜い感情を持つ自分の事を、心の底から嫌悪した。



更新日:2010-07-13 13:27:17

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