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C大学にて

祖父の日記は続く。

車窓から眺める景色は、懐かしくもあり、また新鮮でもあった。
目的の駅が近づくにつれ、かすかな後悔の念と、ほのかな緊張感が込み上げてくる。
  
多くの若者と共に、駅のホームに降り立つ。
彼らの流れに吸い込まれるように、同じ道を歩き、同じ方向を目指す。

しばらく歩くと、母校のC大学が見えてきた。
卒業後は、ゼミの恩師にあいさつするため一度だけ訪れたが、あの時以来か・・・

学生達にまぎれて、校門をくぐる。
あの頃と、それほど変わっていないような気もするが・・・私は、遠い記憶の糸を、必死にたぐり寄せる。

みんな目的の教室に向かって、黙々と進んでいく・・・が、私の行き場所は無い。

「なぜ、ここに来たのだろう?
 私は、一体、何がしたいのだろう?
 単に、目の前の現実から、逃避したかったということか?
 親に守られ、お金の心配も大した悩みもなく、自分のしたいがままの生活を送っていた大学生の頃に、もう一度戻りたいと思ったのか?
 友人達と自由気ままに過ごした、あの頃の思い出に、どうしようもない切なさを感じているのか?」

私は、近くのベンチに腰かけながら、しばらくの間、自問自答を繰り返していた。

「すみませ~ん。ちょっとよろしいですか?」
私に声を掛けてきたのは、爽やかな花柄のワンピースを身にまとった、女子学生だった。
   

更新日:2011-02-15 16:04:38

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