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祖母と父

祖母の話によると、祖父の自殺は労災と認定されず、住んでいた家もローンが返済できなくなったため、泣く泣く手放したそうだ。
祖父の部下だった人達も、当初はいろいろと応援してくれたものの、業務に起因した自殺ではないと主張する銀行からの圧力により、徐々に遠ざかっていった。
結局、これまで通りの生活を続けられるわけもなく、祖母と父は小さなアパートに移り住んで、日夜アルバイトにいそしむ日々を送ることになった。

祖母も父も、明日の糧を得るために、まだまだ癒されていない悲しみを押し殺して、黙々と働いた。
父は都立高校に進学しており、本人は学校を辞めてアルバイトに専念するつもりだったようだが、祖母はそれを認めなかった。
もちろん、父の将来を考えてのことだが、もうひとつ理由が・・・それは、父が合格を報告した時の、祖父のはちきれそうな笑顔が、忘れられなかったそうだ。

祖母と父の生活は、多分、ぼくの想像を超えるくらい、過酷なものだっただろう。
しかし、祖母は言う。
「生きるための糧を得ることは、大概のことに優先する。でも、自分は、人間として生まれてきたことを忘れてはいけない。心を持った人間として・・・」

ぼくは、祖母の言葉に、人間の強さと優しさを、垣間見たような気がした。

更新日:2009-12-16 13:28:20

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