• 77 / 102 ページ

強さ

                         **
時刻は午後十時。刻一刻と迫る時間の中、僕達は各自、休養をとっていた。
勿論、お互い緊張で声なんか出ない。闇が濃くなっていくにつれて、店内の沈黙も濃くなっていく。
三人が握り締めた拳銃は、どんな思いを持っているのだろうか。
そう思った僕は、湊がずっと外から戻ってこないことに気付いた。
もしかして・・・外で倒れているんじゃないのか?どんなにリーダー的存在であったとしても、一番の重傷者は湊なのだ。
僕は立ち上がった。
その行動にさえ、修羅と零次は息を呑む。
「外、行ってくるね」
僕が微笑むと、二人は小さく頷きを見せた。
正直、体は全然良くなんかない。歩くのにも精一杯という状況だ。
でも、僕がこういう行動をとるだけでも、二人の心配は薄れるだろうし、少しは勇気付けになるような気がした。
店のドアを開けると、夜風独特の冷たさと、肌を刺すような感覚に襲われた。
そして、ドアのすぐ横―湊がしゃがんでいるのが目に入った。
「大丈夫?」
二人に会話が聞こえぬようドアを閉め、僕も隣にしゃがみこんだ。
煙草を吸っているところを見ると、おそらく元気なのだろう。
ちらりと、湊の目が僕に向けられた。
「中入ってろ。外は寒いから、無駄な体力を奪われるぞ」
「何か、湊ってお母さんみたい」
そう言って笑った僕に、湊は露骨に顔をしかめた。
「お母さん?」
「そう。言うことは厳しいけど、どこか温かさを感じるところが、お母さんみたいだなって」
合わせた手に息を吐きかけながら、僕は答えた。
「お父さんじゃなくて?」
湊の更なる問いに、僕は笑った。
「そう。お母さん」

更新日:2009-12-06 13:56:24

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook