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大人のための文章道場
今回は、樋口陽一さんの「大人のための文章道場」という本についてご紹介致します。
樋口さんは、作文や小論文の通信講座を通し、数限りない、ヘタクソな文章を多く添削されてきました。二十年以上にも亘る添削指導の経験は、どんな人でも文章が上手くなるノウハウの蓄積になったと自ら仰っています。
では、その中身を少しだけご紹介しましょう。
《リアリティーを作り出す》
まるで手に取るようにアリアリと思い浮かぶような描写に出会うと、ついつい夢中になってページを捲ってしまいます。そのような文章は、具体的かつ緻密な描写で生き生きと書かれています。では、どうしたらそのようなリアリティーがうまれるのでしょうか。
以下は文中の抜粋です。シナリオ作家の山田太一さんのエッセイ「車中のバナナ」からテクニックを学んでいます。
1.具体的にくわしく描写をする。
「懐かしかった」「楽しかった」と抽象的にまとめるのでなく、どのように懐かしさを感じたか、どのように楽しかったかを具体的に説明する必要がある。
山田太一氏のエッセイは、四十代後半の男が列車に乗り込んできたところから話しが動きはじめる。その場面を描くとき、素人であれば、「四十代の男が熱海から乗り込んで、私の斜め前に座った」とだけ書くだろう。だが、山田氏は次のように描写する。
――座るなり、「ああまいった。今日はえらい目にあった」と誰にともなくいい、目を合わせた私の横の娘さんが忽ちつかまり、「いや今朝がた湯河原でね」とまいった話をはじめ、娘さんも結構聞いてあげている。
また、たんに「バナナをくれた」とせずに、「ところがやがて、バナナをカバンからとり出し、お食べなさいよ、と一本ずつさし出したのである」というように、具体的に描写する。
**
すごく具体的な描写なのに、長すぎない。これは、簡単そうでなかなか難しい作業です。私など、クドくなり過ぎないように整理すると、短くなりすぎるし、具体的に説明しようとすると、説明口調になり長くなりすぎる。
やはり、さすが天下の山田さん、テレビドラマの脚本家です。
2.目の前で動いているように書く
「このような花だった」「このような服を着ていた」と書くのではなく、「花が揺れた」「汗にまみれた服を脱いだ」というように、動きのある情景を描くほうがリアリティーが感じられる。また、「疲れて歩いた」と書いて済ますのではなく、その様子を少し描写する。「疲れきって、足を引きずりながら歩いた」「うつむきながら、口もきかずに歩いた」などとすると、状況が外から見えるようになる。そうすると、読んでいる人にも、疲れの様子が見えてくる。「疲れ」という抽象的なものが、具体的になる。
**
これは、小説の小説たるゆえんですよね。「〇〇だった」だけなら、公文書だし。そんな文章、読んでもつまらないですものね。面白い文章は、まるで目の前にその光景が浮かぶように、動きのある表現で埋め尽くされています。
樋口さんは他にも、「意識して現在形を使う」、「読み手に発見させるように書く」、「思い切って省略するところは省略する」などについても述べていますが、ここでは省略して、練習問題です。
(問題)次の文を、リアリティーを増すテクニックを用いて書き改めてください。
夕方、公園の近くの道を歩いていると、急に子どもの乗った自転車が飛び出して来た。私は危うく、ぶつかりそうになった。子どもはそのまま去って行った。
樋口さんは、作文や小論文の通信講座を通し、数限りない、ヘタクソな文章を多く添削されてきました。二十年以上にも亘る添削指導の経験は、どんな人でも文章が上手くなるノウハウの蓄積になったと自ら仰っています。
では、その中身を少しだけご紹介しましょう。
《リアリティーを作り出す》
まるで手に取るようにアリアリと思い浮かぶような描写に出会うと、ついつい夢中になってページを捲ってしまいます。そのような文章は、具体的かつ緻密な描写で生き生きと書かれています。では、どうしたらそのようなリアリティーがうまれるのでしょうか。
以下は文中の抜粋です。シナリオ作家の山田太一さんのエッセイ「車中のバナナ」からテクニックを学んでいます。
1.具体的にくわしく描写をする。
「懐かしかった」「楽しかった」と抽象的にまとめるのでなく、どのように懐かしさを感じたか、どのように楽しかったかを具体的に説明する必要がある。
山田太一氏のエッセイは、四十代後半の男が列車に乗り込んできたところから話しが動きはじめる。その場面を描くとき、素人であれば、「四十代の男が熱海から乗り込んで、私の斜め前に座った」とだけ書くだろう。だが、山田氏は次のように描写する。
――座るなり、「ああまいった。今日はえらい目にあった」と誰にともなくいい、目を合わせた私の横の娘さんが忽ちつかまり、「いや今朝がた湯河原でね」とまいった話をはじめ、娘さんも結構聞いてあげている。
また、たんに「バナナをくれた」とせずに、「ところがやがて、バナナをカバンからとり出し、お食べなさいよ、と一本ずつさし出したのである」というように、具体的に描写する。
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すごく具体的な描写なのに、長すぎない。これは、簡単そうでなかなか難しい作業です。私など、クドくなり過ぎないように整理すると、短くなりすぎるし、具体的に説明しようとすると、説明口調になり長くなりすぎる。
やはり、さすが天下の山田さん、テレビドラマの脚本家です。
2.目の前で動いているように書く
「このような花だった」「このような服を着ていた」と書くのではなく、「花が揺れた」「汗にまみれた服を脱いだ」というように、動きのある情景を描くほうがリアリティーが感じられる。また、「疲れて歩いた」と書いて済ますのではなく、その様子を少し描写する。「疲れきって、足を引きずりながら歩いた」「うつむきながら、口もきかずに歩いた」などとすると、状況が外から見えるようになる。そうすると、読んでいる人にも、疲れの様子が見えてくる。「疲れ」という抽象的なものが、具体的になる。
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これは、小説の小説たるゆえんですよね。「〇〇だった」だけなら、公文書だし。そんな文章、読んでもつまらないですものね。面白い文章は、まるで目の前にその光景が浮かぶように、動きのある表現で埋め尽くされています。
樋口さんは他にも、「意識して現在形を使う」、「読み手に発見させるように書く」、「思い切って省略するところは省略する」などについても述べていますが、ここでは省略して、練習問題です。
(問題)次の文を、リアリティーを増すテクニックを用いて書き改めてください。
夕方、公園の近くの道を歩いていると、急に子どもの乗った自転車が飛び出して来た。私は危うく、ぶつかりそうになった。子どもはそのまま去って行った。
更新日:2009-12-29 22:52:31