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休憩時間 (私の好きな本)

 ここでちょっと一休みして、わたしの読書遍歴について振り返ってみたいと思います。

「好きこそものの上手なれ」という言葉があります。私は20代のころ書店で時間を費やすことが大好きで、札幌の4階建ての書店「なにわ書房」で1階につき1時間、計4時間も立ち読みをしたことがあるほど、書店は私にとって娯楽の殿堂でした。

 いつも本を探していると、自然と自分が面白いと思う本が、背表紙を見ただけでピンと来てしまったりします。タイトルが、私を呼んでいるのです。

 そんなような感じで、当時私を夢中にした本は、たいてい「ジグソーパズル型」でした。つまり、パズルのピースを一つ一つ埋めていくように、最初は何が何だかわからない話が、少しずつ解明されていくのです。設定場所として、病院がよく使われます。

 では、具体的にそのような話しを挙げてみましょう。


1. 宮部みゆき レベル・セブン
 タイトルを見て、この話はRPGのようなファンタジーなのかと思いましたが、しかし、そうではありませんでした。レベル・セブンといのはヒットポイントなどではなく、薬物の量に関する数字だったのです。
 読みやすいけれど背景がきちんと調べられていて、正直で優しい登場人物に感情移入してしまい、身の安全を心配してみたり、先が気になってしょうがないのでついついイッキに読んでしまう、そういう宮部ワールドの代表作だと思います。


2.村上春樹 世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド
 現実の世界と、一角獣の骨が出てくるファンタジーの世界が交互に現れます。主人公の職業が『記憶の保存と運搬』といった特殊な仕事であり、そのシステムの説明は、その当時よく理解できなかったほど難解でした。しかし全体的には、凝ったフランス料理を作る過程や、女の子の作った可愛らしい歌などの描写が、主人公の繊細で冷静な感性により紡ぎだされます。外国文学を読み慣れている、日本人離れした文章力です。
 彼の世界にどっぷりとつかると、さらに彼の翻訳した「レイモンド・カーヴァー」だの「アーウイン・ショー」だのまで読みたくなったりします。


3. 連城三紀彦 暗色コメディー
 私は「恋愛小説」は苦手なのですが、「恋愛ミステリー」となると話は別です。連城さんの書く作品は優れたミステリーで、その技法は若い頃シナリオの勉強でパリに留学して培われたらしいです。
 この話しも病院と密接な関わりがあり、登場人物の視点が変わるたびに誰が本当のことを言っているのかわからなくなります。頭がおかしいのか、視点が違えば正しいことをいっているのか? 謎が次々と深まって、どんどん読み進めていくのであっという間に読んでしまいます。構成の秀逸さとスマートさでは、他に類を見ません。


4.京極夏彦 姑獲鳥の夏
 京極作品において、登場人物の多さとページ数の多さは欠かせない要素です。彼の作品は6百ページを超えることなど珍しくもないので、この作品は4百ページ位で比較的読み易い方です。しかしデビュー作のため、以後続くシリーズの中で本作は、登場人物の個性がまだ確立されていない感はありますが、いちばん物語としてまとまっているように思います。
 姑獲鳥(うぶめ)とは妖怪の名で、死んだ妊婦をそのまま埋葬すると姑獲鳥になるといわれています。その姑獲鳥になぞらえたように、妊娠して20ヶ月も出産しない妊婦がいるという噂があり、主人公の新聞記者が事件に巻き込まれ、その友人が事件を解決します。
 戦後のいかにもオカルトチックで陰惨な事件の解明に乗り出す、主人公の友「京極堂」の冷静な推理と個性的な友人たちの魅力が読みどころです。


5. 夢野久作 ドグラ・マグラ
 これも一応名作ですよね。こういったメリハリのある名作は大好きなのですが……。
 京極作品に負けないくらいの長編です。なにしろこの作品を書くに当たって、10年もの年月を費やしているのですから。
 やはり、病院で物語が始まります。真っ白い精神病院の中で目覚めた青年は記憶喪失で、病院内で出会う人と話すごとに、断片的に記憶がよみがえります。その記憶を読み戻すための手助けをする医師が「脳髄はものを考える処に非ず」という理論を研究しており、その理論と主人公の記憶が、次第に過去の凄惨な事件につながっていくという話しです。
「黒死館殺人事件」と「虚無への供物」とともに日本三大奇書のひとつといわれているそうで、読破すると一度は精神に異常を来たすといわれたそうですが、恐らくさほど猟奇的な事件のなかった平和な時代だからそういわれたのでしょう。
 

 近ごろでは、最後までイッキに読んでうような本が少なくなり淋しい限りですが、来年はそういう勢いのある作品に巡り会えたらいいな~と思います。


更新日:2009-11-15 13:53:05

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