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息を切らすくらいに自転車をこぎ、家に到着した。

「ただいま!はぁはぁ・・・」
「おかえりー」

母の返事が返ってきたが、私は鞄を抱えて自室へと向かう。
部屋に入ると、すぐに蛍光灯をつけた。取りあえずは鞄を布団の中へと隠した。今から考えれば不自然極まりない行動だ。いつものように鞄を所定の位置においてあったとしても、誰も怪しんで中を見ることなどないだろう。だが、このときの私は、ただひたすらにこの本を隠さなければならないという思いに追い立てられていたのだ。
息も収まり、心臓のバクバク感も収まった。
(ゴクッ・・・)
生唾を飲み込み、布団の中に隠した鞄の中身を見てみようとしたとき。

「はるか。ご飯よ。」
「!?・・・。」

慌てて鞄を布団の奥へと更に隠した。

「は、はーい。今行く!」

早く見てみたいという好奇心に後ろ髪を引っ張られながら、リビングに向かった。

食事をてきぱきと済ませて、自室に戻ろうとすると

「お風呂に入っちゃいなさい。」

どうして、こんなときに邪魔ばかりとイライラしたが、ここは平常心と思い、母の言う通りにお風呂に入ることにした。よく考えれば、いつも食事が終わると私はリビングのテレビにかぶりつくようにして番組を見ているのに、今日はその行動をしていない・・・。これでは怪しまれると思い、お風呂を入れに行ったあと、いつもの通りにテレビをつけた。
いつも楽しみにしているバライティ番組を見ても、面白くない・・・。
お湯がはれるまで、ひたすら時間を潰すことに専念した。

「お湯がはれたわよ。」

母の声がすると、私は自室に戻りパジャマや下着を持ってお風呂に向かった。
お風呂場に向かうためには、台所を通る必要があった。

「あら、めずらしいわね。いつもあの番組を見てると、入りなさいって言っても、中々入ろうともしないのに・・・」
(す、するどいよぉ!お母さん!!)
「へ、ああ・・・今日のは、面白くなくて・・・。全然、笑い声とか聞こえなかったでしょ?」
「そう言えばそうね。いつもゲラゲラと声が聞こえるしね。」
「ま、そういうこと。じゃあ、入ってきます。」

我ながら、うまく誤魔化せたと思いながら、湯船に使った。

更新日:2009-01-21 21:38:13

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