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食事が済むと、湯弦は風邪薬と水を持ってきた。
「もぅ…無理……飲み込めない……………」

甘えている訳ではない。
本当に今にも倒れそうな雰囲気だ。

「はぁ」
面倒臭そうに溜め息をつく湯弦。
湯弦は風邪薬のカプセルを掴むと、それを口に含んだ。
そのまま半開きの梨桜の口の中に、舌でカプセルを突っ込んだ。

喉の奥に突っ込み過ぎた為、少し噎せた。
梨桜の顔は、熱の為か、咳き込んだ為か、キスされた為か、わからない位真っ赤だ。

すかさず湯弦は梨桜の口に水を入れた。
水は殆ど口元から出て行ったが、少しは自分の口に入ったようだった。
湯弦としてはサービスのつもりだったが…よほど辛いのか、黙っている。
仕方無く、ぼぉっとして視点の定まらない梨桜をベッドまで運んだ。

梨桜が寝ている間、湯弦は昼食を済ませた。
その間、湯弦は一瞬たりともベッドから目を離さなかった。

昼食後はベッドの隣に椅子を置いて監視した。
梨桜は、かなりうなされている。

汗だくになりながら、少し目を開けて呟く。
「…寒い………。」
虚ろな目が、湯弦を見つめる。

湯弦は、梨桜が眠る布団の中に入り、梨桜の体を抱きしめた。
いつも少し冷たかった梨桜の体が暖かい。
「…あったかい……。」
自分より2~3℃冷たい湯弦の体が、梨桜には温かく感じた。
梨桜は湯弦をギュッと抱き返すと、そのまま寝息を立て、安らかな顔で眠った。

午後4時前。
湯弦はハッと目を覚ました。

心なしか顔色の良くなった梨桜が自分の胸の中で眠っているのを見ると、少し力が抜けた。
安心仕切ったような顔で眠る梨桜。

不意に湯弦は梨桜の首に手をかけた。
細く柔らかい、少し捻れば取れてしまいそうな首。

よく考えれば、夜の相手をしてまで梨桜に媚びる必要性は無い。
こうやって、力を加えるだけで良いのだから…。

更新日:2009-01-04 17:06:46

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