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「あ…、あった。」
 ありました。袋入りのパン二斤、携帯液体食料七袋、チーズの塊一個、缶チキンと缶ビーフそれぞれ三缶ずつ。それにミネラルウォーターのボトル二本とワイン一本。ちゃんとお皿やナイフ、スプーンまで用意されています。水以外はどれも高カロリーのものばかりです。
「いつのだろこれ…。あら?」
 古いものだったらいけないと思って確認しようとすると、パンの間にはさまっていた紙切れが床に落ちました。二つ折りにされた小さなメモ用紙です。
 書いてあるその文字はすべてドイツ語で、四行程度の短い文章でした。紙もインクもまだ新しくてつい最近書かれたものらしいのですが、何しろドイツ語ですからわたしにはさっぱりです。
 でもその中に二つだけわたしにもわかる単語がありました。
 一つは“イスカル”と言う男の人の名前(?)なのですが、もう一つは“Verräter”(フェアレーター)という単語です。これは“裏切り者”という意味で、わたしは昔これと同名の映画を観たことがあるので覚えていたのです。
「イスカル……裏切り者…」
 わたしは声に出して読んでみました。“イスカル”は、聖書に出てくる十三番目の使徒ユダの名前ですから、確かに裏切り者には違いありません。
 多分ジャッキーの仲間か誰かが彼に宛てて書いたのでしょうが、でも、これだけしか読めなくては意味不明です。きっとこの食料もその仲間が用意してくれたのでしょう。
「――ま、いいか。」
 なんにしろどうせ他人ごとなので、わたしは深く考えずそのメモを戸棚の中に戻し、代わりにパンとチーズとチキン、そしてミネラルウォーターを取り出してテーブルに運びました。
 イスカル――その名前が初めてわたしの記憶に刻まれたのはこの時でした。
 パンの匂いを嗅いでみると大丈夫そうでした。わたしは作業着を脱ぎ捨てて、早速パンを半分に割りました。
 普段なら手を洗ってから食べるところですが、この時はおかまいなしで、立ったまま口に頬張ってしまいました。
 ほぼ一日ぶりの食事でしたから、おいしくておいしくて。調子に乗ってチキンの缶も開けて、それも手掴みで食べました。

更新日:2009-09-28 22:13:08

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超時空物語RAIN 第一部 わたしの仲間たち