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今在る僕

「ねえ、南君は彼女つくらないの?」
クラス1の美人、苗倉美琴(なえくら みこと)に声をかけられ、僕は顔を上げた。
「うん。今は勉強に専念したいんだ」
この答えは、あらかじめ用意していおいたものだった。
「そっか。残念だな。南君、優しくて真面目だから、狙ってる子多いんだよ?」
美琴が顔をしかめ、一瞬だけ背後に目を遣った。
僕は無言で、彼女の視線を追った。その先には、こちらを見て、話し合っている数人の女子。どうやら彼女は、グループ代表らしい。
「ありがとうって、あちらの子達にも言っておいてもらえるかな?」
僕は久しぶりに、「作り笑顔」を表に出した。
「うん、分かった。邪魔していごめんね」
それでも彼女は満足したらしく、グループに戻っていった。
僕は思わず、小さく笑ってしまった。何故彼女達は、こんなにも分かりやすい「作り笑顔」に気付かないのだろう。「キミ」だったら、絶対に気付くのに――。
「何一人で笑ってるんだよ、南」
ふと気付けば、僕を呆れた瞳で見下ろしている男子が、目の前に立っていた。
「今日当たるんだよ。宿題見せてくれねえか?」
彼は僕の前の席に腰を下ろし、眼前で手を合わせた。
「よく言うよ。そう言って、宿題をやってきた日は1日だってないだろ」
僕はそう言い返しながらも、机の中からノートを取り出した。
「まあ、いつも世話になってるからな」
そう言って、宿題をいつも宿題を見せている僕に、果たして非はないのだろうか。
「さんきゅ!助かるよ、南が俺の親友で」
彼は彼は嬉しそうに、僕のノートを連れ去っていった。
「・・・本当にそう思ってるのかよ」
僕は苦笑した。どうやら彼の辞書には、「親友・・・いつも宿題を見せてくれる、使いがいのある奴」と記してあるらしい。
「・・・何の意味もないよな」

更新日:2009-10-01 18:35:29

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