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僕は静かに、木の根元に手紙を置いた。相変わらず桜は、美しく散っていた。
「それ、風で舞わない?」
梓が僕の隣にしゃがんだ。
「・・・舞わないよ。でも、次来た時は、もうないだろうね」
梓が一瞬、驚いた顔で僕を見つめ、ゆっくりと微笑んだ。
「・・・そうだね。彼女が持っていっちゃうんだもんね」
僕はそっと、最後の「僕」に手を伸ばした。
「・・・キミがもう、この世界にいないことは事実だよ。でも・・・彼女は僕の中で、永遠に生き続けているんだ。ずっと僕の傍にいてくれてるんだ」
梓が僕の手に、一回り小さい自分の手を重ねた。
「・・・私の中でだって生きてる」
僕らは暖かい日差しの中、ずっと手を重ね続けていた。その二つの手に、一枚の桜の花びらが乗った。僕らは顔を見合わせ、笑いあった。
「・・・大丈夫だよ。キミを仲間はずれなんかにはしないよ」
僕らは立ち上がった。
「さあ・・・行くわよ!」
「そうだね」
桜の咲き乱れる中、僕らはたわいもないおしゃべりをして歩いた。
一瞬だけ、風が吹き荒れた。すぐにおさまったが、桜が派手に散ってしまった。
「・・・あ~あ。せっかくの桜が・・・」
梓は、あの日の僕のように、降り注ぐ花びらに、必死に手を伸ばしていた。
僕は急いで振り返った。
「・・・せっかちなんだね」
僕は微笑んだ。
「どうしたの?」
梓は、手のひらに数枚の花びらを握っていた。
「なんでもないよ」
僕はもう振り返らずに、梓と共に歩き出した。

―「ねえ、みーくん。もし、離れ離れになっても、また会えるかな?」
―「会えるよ!だって僕とキミは、離れてもずっと一緒なんだから!」
―「約束だよ?」
―「勿論!また、この桜の木の下で会おうね」


 ―『二人だけの、永遠の誓いなんだからね』―




更新日:2009-10-20 13:54:44

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