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僕は決意に揺らいだ瞳を、彼女に向けた。
「でも、今は違う。彼女のことを、ちゃんと知りたいんだ。もう彼女には何もしてあげられないけど、それでも、このままじゃいけない気がする。逃げてばかりじゃいけない気がする。向き合える時に、ちゃんと向き合っていかなきゃいけない気がするんだ」
彼女が初めて、優しく微笑んだ。
「・・・それでこそ男よ。貴方があのまま、私の言うことをすんなり受け入れていたら、思いっきり殴るところだったわ」
彼女が僕に、綺麗な手を差し出した。
「自己紹介がまだだったわね。・・・・桐原梓(きりはら あずさ)。よろしくね」
「こちらこそ」
僕は迷わずに、彼女の手を握り締めた。


僕は梓と共に、教室へと続く廊下を歩いていた。
「ねえ梓さん。僕の決意も固まったことだし、そろそろ彼女について、教えてくれてもいいんじゃないのかなあ」
僕は彼女の横顔を見つめた。
「それがね、そういうわけにもいかないのよ」
彼女が足を止めた。
僕も慌てて足を止めた。
「どういうこと?だって彼女の死を、梓さんは見てたわけだろ?」
彼女は腕を組んだ。
「そうなんだけど・・・実は私も、はっきりとは覚えてないのよ」
「どうして?・・・まさか」
「そう、そのまさか。彼女の死は、私にとっても衝撃的な出来事だったわ。おそらく、当時の私は、今の私が思っている以上の衝撃を受けた。そして・・・それをなかったことにしたの」
僕は耳を疑った。もしそれが事実だとしたら、「キミ」へ近づくための手がかりがないことになる。正直いって僕は、彼女の記憶をとてもあてにしていた。
忘れたなんて・・・――。道が閉ざされた。

更新日:2009-10-11 18:10:04

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