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思い出舞う

―あの日のことが、昨日のことのように、僕の記憶を支配する―


本当に美しい桜が舞う中で、キミは振り返った。
キミの笑顔は、桜よりも美しかった。
「この桜・・・ずっと近くで見たいって思ってたんだ」
キミは悲しげに笑った。
あの時、どうしてそんなに悲しそうなのって問いかければ、キミは苦しまなかったのだろうか。幸せになれたのだろうか。
今はそう思うのに、あの時の僕にそんな勇気はなかった。
「良かったじゃん、桜見れて。僕も嬉しいよ」
キミの顔を見ないようにして、僕は桜の木に触れた。
「ありがとう、みーくん。あたしも嬉しい」
まるで何もなかったかのように、キミの顔にはすぐに笑顔が戻った。
卑怯だと思う自分がいるのに、僕はキミの本当の気持ちを知るのが怖かったんだ。キミが好きなら・・・キミを愛しているのなら・・・キミの相談に乗るべきだったのかもしれない。でもそれ以上に、キミの笑顔が消えるのが怖かった。僕は何よりも恐れた。
キミを失うという、最も恐ろしいことを知らずに・・・――。
それでもキミは、微笑みかけてくれた。
「桜・・・夏になったら緑になるんだよね。せっかく綺麗なピンクなのにね」
ひらりと舞い落ちる、一枚の花びらを、キミは見つめた。
キミは何を思っていたのだろう。今になって思えば、キミは花びらと自分を、重ね合わせていたのかもしれない。
「しょうがないよ。それに、緑になっちゃうから、みんなはピンクの時の桜を惜しむんだろう?もしずっとピンクだったら、きっとみんな桜を見なくなっちゃうよ」
僕は舞い落ちる、多くの花びらに手を伸ばしていた。
「そうだね。みーくんの言うとおり。でも本当に美しいものは、いつ見たって美しいんだよ?」

更新日:2009-09-30 00:05:02

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