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銭湯ラブライフ ep.2【R-18】

銭湯ラブライフ ep.2



 わしわしと髪を洗いながら、俺は隣に座っているマキさんを覗き見た。
 引き締まった体に、艶やかな肌。俺みたいに白いだけで細すぎる情けない体じゃない。
「あ~あ、俺もちょっとは鍛えた方がいいのかなぁ……」
「あら、どうして?」
「だって、全然色気ないんだもん。子供みたい……。マキさんみたいになりたいなぁ」
「私みたいになったらショウちゃんが泣くわよ」
「そうかな……」
 泡を洗い流して、マキさんと並んで湯船に浸かる。
 今日は安藤さんが夜勤らしく、マキさんと『極楽之湯』に来ていた。
 三ヶ月前の夏の終わり、俺はこの『極楽之湯』でハッテン場デビューを果たした。デビュー早々“上級者向け”とも知らずにサウナ室に入ってしまい、あわや貞操の危機――だったところを安藤さんに助けてもらった。その時から俺の頭も胸も安藤さんのことでいっぱいで、生きがいだって言っても過言じゃない。
 ノンケの安藤さんと付き合えることになって有頂天の日々、のはず。
「何か不安なことがあるの?」
「不安なことっていうか……うーん……」
「体の相性が悪いとか? それとも~……あ、分かった! ショウちゃんの性欲についていけないとか? だから鍛えようなんて思ったんじゃないの~?」
「ま、マキさん、声が大きいです……」
「当たり? 当たり?」
 俺は情けない気分で、顎までを湯船に浸けた。安藤さんは『極楽之湯』で一番温度の高い湯船が好きだけど、俺にはちょっと熱すぎる。だから今日は、普通の温度の湯船に浸かっているんだけど。
「あの、ですね……体の相性以前に……まだ何も、ないです」
「えっ……ええ~!?」
 マキさんの悲鳴が高い天井に響き渡った。
「だ、だって、付き合うことになってどのぐらい経ったっけ? あの事件の時ぐらいでしょ? だから~もう三ヶ月ぐらいになるんじゃないの?」
「は、はい……そのぐらいですね」
「その間何もナシ? ホントに?」
「だって安藤さん忙しいじゃないですか。あんまりゆっくりも会えないし……」
 付き合うって言っても、結局俺の独りよがりだったんじゃないかって、不安になる。
 一応銭湯以外でも会ったり、安藤さんの部屋にもあげてもらったりして過ごすことはあるけど、それじゃただの友達としての付き合いと変わらない。
「……やっぱり、俺に魅力がないのかな~」
「そんなことないと思うけど。私みたいなガチのゲイは、意外と純ちゃんみたいな美少年に興味はないけどね。ショウちゃんみたいな元ノンケにはいいと思うわ。ほら、オシリだってぷりぷりだし~」
「も、揉まないでください!」
「オチンチンだってかわいいしキレイだし」
「わっ、ちょっと、触らないでぇ~!」
「とにかく、よ」
 マキさんが突然真面目な表情になった。こうしているとマキさんは男前だ。マキさんは男の人を抱く方の立場だって言っていたけど、マキさんのことを抱きたいと思う人だってたくさんいるんじゃないのかなと思う。
「ああいう男には、こっちから迫るしかないわよ」
「せ、迫る……ですかぁ」
「そうよ。純ちゃんは若いしカワイイんだから、自信持ちなさい」
「……はい……」
 そう言われても、どうもがいたって俺は男だ。柔らかいおっぱいもついてなければ、ついてなくていいものまでついてる。
 安藤さんと……その、そういうことをしたい気持ちはいっぱいあるけど、いざって時になってやっぱりダメだって言われると立ち直れそうになかった。



更新日:2009-09-18 12:54:24

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