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A night stay.

ボストンを訪れたのは朝の10時頃だった。
NYとは電話とメールで連絡を取り、午後からはナイジェル氏の弁護士が立ち会いに訪れ、
午後7時頃には一応の契約が整った。

弁護士のP氏を囲んで、ナイジェル家で晩餐となり、Rayも同席した。
相変わらず表情のないRayだったが、無表情というのとも違う、表情のなさであった。

なんというのだろう、まるで何十年も生きていて、あらゆる事を知り尽くしているので、
もう何にも興味が持てないという悟りの顔、とでも言えばいいだろうか。

今からしばらく担当して行くことなるこの青年を見ていて、僕は自分の方が年下であるような不思議な感覚を覚えていた。

ディナーが済み、P氏ご夫妻が帰られ、さて、僕もホテルにと書類をまとめていると、
ナイジェル氏が「これからお世話になる大切な方です。よろしければ、客間がございますかお泊まりいただけると光栄なのですが」と申し出て来た。

そんなにVIP扱いされる筋合いはないのだが、断ると失礼になるとも思い、一晩お世話になる事にした。

Rayは知らぬ間にどこかに姿を消したかと思いきや、あのサンルームから静かにピアノの音が流れている。

ナイジェル氏が「夜が怖いんですねえ。いつも電気をつけっぱなしにして、何か弾いてます。」と笑って執事のKに「あたらしい耳栓はどうかね?役に立つかね?」と冗談を飛ばしていた。

Kは「おかげさまで良く眠れております」と笑いを返していた。

館にはKの他に料理などをする年配の女性が3人見え隠れしていた。

ナイジェル氏はどうも独身のようだった。
優雅な暮らし。寄ってくる女性はどんなクラスの女なのだろうなどと、ゲスな勘ぐりを巡らしていると、
「さて、お話しておかなくてはならない事があります」とナイジェル氏が初めてと言っていいほど
真面目な顔をした。

さては、契約に釘でも刺すつもりか?そのために僕をひきとめたのか、、。

まんまと乗ってしまった自分にあきれたのだった。

更新日:2014-01-10 13:40:54

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