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To Boston.

ナイジェルの家はボストンの郊外にある。
家というべきだろうか。
むしろ、館という部類の、歴史建造物といった方がいいのかもしれない。

僕がRayのチェロのデモテープを受け取ったのは、その3日前だった。
エージェントから依頼を受けて、ボストンに入ったのは、雪が30センチも積もる12月の事だった。

デモテープに録音されていたのは、やはりバッハだった。

クラシックは苦手なほうだった僕だが、なぜかこの「音」はタダモノでない気がして、自分から視察に行かせてくれと上司に頼んだ。

上司は「どうしたオーエン、チェロなんてわかるのか?タキシード貸してやろうか?」とからかった。

曲がりくねった道に巡らしたフェンスを追って、タクシーで門を探す。
やっと門らしきものが現れ、僕がタクシーから降りてインターフォンを押し、訪問を告げると、
自動的に門が開いた。

慌ててタクシーに戻り、門を抜け、2分ほども走り、雪の向こうにやっと家が見えて来た。

ヤバい、これは家なんて代物じゃない。
タキシードでも着てくるべきだったかと、内心、自分のコーデュロイに悪態をつきながら、運転手に支払いをすませた。

折際に運転手が「帰りに入り用なら電話してくれ。いつでも飛んでくるよ。すごい金持ちじゃないか。せいぜい、楽しめよ、グッドラック」とボストンなまりでニヤッと笑った。

更新日:2014-01-10 12:13:09

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