• 26 / 42 ページ

六法全書も過去がある

 半年の成果をまとめてみよう。彼女は俺と、二人だけのときには何かを話すようになり、勉強を聞ける先輩が出来た。俺は六花に告白し、レポートパットを投げつけられ、タメ口で話すことに成功した。 

 けれど、そもそもの根底にあったのは、「六法全書と呼ばれる少女の心の解放」及び、「もう少し人付き合いがよくなりますように」である。

 この目標を達成するために、先生は『わざわざ』忙しいことを理由に、院生に学部生の子守りをさせたのであり、(まあ聞く話によると形だけなのだが)忙しい院生たちも協力してくれているわけだ。

 俺がその目標を達成できたか、達成する兆しが見えているかと言われると、全然見えていないのである。
 理由としてはまず、六花が俺と二人きりのときでないと俺と会話をしないこと、相変わらず同じゼミの先輩にも同級生にも挨拶すらしないことなどがあげられる。


 つまり例えるならば、六法全書が地方条例を認めた程度の出来なのである。


 俺は地方条例か……。



 適度に踏み込むことを覚悟せねばならない。しかし嫌われたくないので適度に。
 要約すると、「なるようになれ」だ。どうせ他の人ができるわけでもないのだから、挑戦する姿勢だけ見せておこう。姿勢だけだ。







「そういえば、狭山が月末に短期留学に行くらしいんだが」

 いつものように勉強中に、六花に訪ねてみた。俺が丁度「狭山」と言った辺りで首を傾げた。「院生の、ストレートの」と言うと、なんとなく目星がついたらしい。こいつは人の名前を覚えてないのか……。重症である。

「あれ、学部生も行けたはずだろ? 申し込まなかったのか?」

「海外に行くにはパスポートが必要で……、パスポートの申請には、身分証明書と戸籍抄本と身分証の写し等が必要」

「いや、それは取りに行けば……」




「……そうだけど、実家に戻らないと取りに行けないでしょ?」

更新日:2009-09-25 10:12:14

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook