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異能の男-序章 その2
ゆっくり進んでも、あと二日も歩けば山道を抜けられるところまで来た。
山賊は金を盗ったことに満足したのか、街道には出てこなかった。
ここまで来たら、もう出てくることはないだろうと思い、私は警戒を解いた。
リオードはまだ右足を引きずっていたが、足取りはしっかりしており、傷も化膿することなく順調に回復しているようで、食事も普通に取るようになっていた。
山道はいったん谷を下り、急峻な沢沿いにしばらく進んでから、吊り橋を渡って対岸へと進む。
上流に小さな滝が見える涼しげな木々の合間で休憩を取ることにして、私はリオードを休ませて、水を汲みに沢へと降りていった。
木々に掴まりなから崖を下り、沢にたどり着くと、水量は少ないものの、清冽な流れが谷底を洗っている。
手を洗い、顔を洗い、水を手ですくってのみ、それから皮袋に水を詰めて顔を上げると、対岸に人の気配がした。
数人の男たちが、対岸の崖を下って沢へ降りてくる。
野卑な笑い声が聞こえ、それは山賊の一味だとわかった。
すぐに崖を上れば、見つからずにその場を去ることはできた。
だが、私はそこから動かなかった。
リオードの金のことが頭をよぎったからだ。
(ちょうどいい、金を取り返してやろう)
私はチャンスと思って待ちかまえた。
乱暴に崖を駆け下り、奇声を上げ水の中に飛び込んできた若い男たちは四人。
私に気がつくと、賊たちは目つきを鋭くして近寄ってきた。
一番大柄な男が真っ先に私を睨め付けて脅すように言った。
「女、こんな所で何をしている?」
「見ればわかるだろう。水を汲んでいたんだ」
バカにしたような私の言い方に、彼らはすぐに反応した。
「てめえ、なめた口きくんじゃねえ。おれらが誰だかわかってんのか?」
「山賊だろう。見ればわかる」
私はさらに彼らを挑発した。
男たちは目を血走らせ、それぞれ腰に吊っている剣を鞘走らせて構えた。
「このアマ、一人でこんな所に来たことを後悔させてやる」
私も背負った剣を抜いた。
「女のくせに剣なんか持ってやがる。やめとけ、怪我するぞ」
後ろにいる小柄な男が口を歪めて卑下するように笑った。
他の男たちもそれに呼応して、ばかげた笑い声を立てた。
「おとなしく言うことを聞けば、いいようにしてやるぞ」
大柄な男は残忍な表情を浮かべ、舌なめずりをした。
そこへ、山賊の仲間たちがまた対岸からワラワラと降りてきた。
三人、四人、五人。
全部で九人の男たちが私と対峙した。
あとから来た男たちは歳が上のようで、先に来た男たちより落ち着いた風貌だった。
「どうした?」
「おかしら、このアマが一人でこんな所にいるから、捕まえてやろうと思って」
「武人か?」
おかしらと呼ばれた男は値踏みするように私を眺めた。
「おまえが頭か?」
私は問い返した。
「一応な。だがおまえには関係ない」
「いや、関係ある。おまえら、数日前に若い男から、金を盗っただろう?」
「それがどうした?」
「返してもらおうか」
頭はあざ笑った。
「できるのか、女」
「一応、武人だからな」
「笑わせるな!一人で何ができる?捕まえてひん剥いて、ヒイヒイ言わせてやる。後で後悔するなよ」
口汚い言葉を吐き、大柄な男が向かってきた。
そして、最初に沢に来た男たちがそれに続いた。
ドカドカと水の中を走って、賊は向かってくる。
女と見てなめているせいか、鋭さはない。
それをありがたく利用させてもらうことにした。
人数が多いので、相手がなめてかかっているうちに、倒すだけ倒さなければならない。
私は大柄な男の力任せの振りをかいくぐり、懐に飛び込むと一閃で無防備な男の腹を薙いだ。
叫び声を上げる男を蹴り倒し、その勢いを借りて加速し、次に向かってくる小柄な男の剣を跳ねとばして胸を突いた。
勢い余って、剣は深々と男の胸に突き刺さり、私は足で蹴押してその剣を引っこ抜いた。
「悪いな。人数が多いので、手加減している暇がない」
血を噴き出し倒れる賊に言い残し、次の男に向かう。
三人目はやっと私と剣を合わすことができた。
すぐに四人目もかかってくる。
だが、二人とも明らかに私の出足の鋭さにひるんでいる。
先の二人にように突っかかってくることはしないが、その分、剣の振りも甘かった。
男たちは力は強いが、それだけでは剣は充分に扱えない。
剣の扱いは私の方が上だ。
二人を相手に二合三合と打ち合って、一人は腕を斬り裂いて仕留めた。
その時点で、もう一人が逃げだそうとしたので脚を狙ったが、逃げ足が速く、うまくかわされて深傷には至らず、男は足を引きずって他の賊たちのところに逃げ戻った。
「速いな、女」
山賊は金を盗ったことに満足したのか、街道には出てこなかった。
ここまで来たら、もう出てくることはないだろうと思い、私は警戒を解いた。
リオードはまだ右足を引きずっていたが、足取りはしっかりしており、傷も化膿することなく順調に回復しているようで、食事も普通に取るようになっていた。
山道はいったん谷を下り、急峻な沢沿いにしばらく進んでから、吊り橋を渡って対岸へと進む。
上流に小さな滝が見える涼しげな木々の合間で休憩を取ることにして、私はリオードを休ませて、水を汲みに沢へと降りていった。
木々に掴まりなから崖を下り、沢にたどり着くと、水量は少ないものの、清冽な流れが谷底を洗っている。
手を洗い、顔を洗い、水を手ですくってのみ、それから皮袋に水を詰めて顔を上げると、対岸に人の気配がした。
数人の男たちが、対岸の崖を下って沢へ降りてくる。
野卑な笑い声が聞こえ、それは山賊の一味だとわかった。
すぐに崖を上れば、見つからずにその場を去ることはできた。
だが、私はそこから動かなかった。
リオードの金のことが頭をよぎったからだ。
(ちょうどいい、金を取り返してやろう)
私はチャンスと思って待ちかまえた。
乱暴に崖を駆け下り、奇声を上げ水の中に飛び込んできた若い男たちは四人。
私に気がつくと、賊たちは目つきを鋭くして近寄ってきた。
一番大柄な男が真っ先に私を睨め付けて脅すように言った。
「女、こんな所で何をしている?」
「見ればわかるだろう。水を汲んでいたんだ」
バカにしたような私の言い方に、彼らはすぐに反応した。
「てめえ、なめた口きくんじゃねえ。おれらが誰だかわかってんのか?」
「山賊だろう。見ればわかる」
私はさらに彼らを挑発した。
男たちは目を血走らせ、それぞれ腰に吊っている剣を鞘走らせて構えた。
「このアマ、一人でこんな所に来たことを後悔させてやる」
私も背負った剣を抜いた。
「女のくせに剣なんか持ってやがる。やめとけ、怪我するぞ」
後ろにいる小柄な男が口を歪めて卑下するように笑った。
他の男たちもそれに呼応して、ばかげた笑い声を立てた。
「おとなしく言うことを聞けば、いいようにしてやるぞ」
大柄な男は残忍な表情を浮かべ、舌なめずりをした。
そこへ、山賊の仲間たちがまた対岸からワラワラと降りてきた。
三人、四人、五人。
全部で九人の男たちが私と対峙した。
あとから来た男たちは歳が上のようで、先に来た男たちより落ち着いた風貌だった。
「どうした?」
「おかしら、このアマが一人でこんな所にいるから、捕まえてやろうと思って」
「武人か?」
おかしらと呼ばれた男は値踏みするように私を眺めた。
「おまえが頭か?」
私は問い返した。
「一応な。だがおまえには関係ない」
「いや、関係ある。おまえら、数日前に若い男から、金を盗っただろう?」
「それがどうした?」
「返してもらおうか」
頭はあざ笑った。
「できるのか、女」
「一応、武人だからな」
「笑わせるな!一人で何ができる?捕まえてひん剥いて、ヒイヒイ言わせてやる。後で後悔するなよ」
口汚い言葉を吐き、大柄な男が向かってきた。
そして、最初に沢に来た男たちがそれに続いた。
ドカドカと水の中を走って、賊は向かってくる。
女と見てなめているせいか、鋭さはない。
それをありがたく利用させてもらうことにした。
人数が多いので、相手がなめてかかっているうちに、倒すだけ倒さなければならない。
私は大柄な男の力任せの振りをかいくぐり、懐に飛び込むと一閃で無防備な男の腹を薙いだ。
叫び声を上げる男を蹴り倒し、その勢いを借りて加速し、次に向かってくる小柄な男の剣を跳ねとばして胸を突いた。
勢い余って、剣は深々と男の胸に突き刺さり、私は足で蹴押してその剣を引っこ抜いた。
「悪いな。人数が多いので、手加減している暇がない」
血を噴き出し倒れる賊に言い残し、次の男に向かう。
三人目はやっと私と剣を合わすことができた。
すぐに四人目もかかってくる。
だが、二人とも明らかに私の出足の鋭さにひるんでいる。
先の二人にように突っかかってくることはしないが、その分、剣の振りも甘かった。
男たちは力は強いが、それだけでは剣は充分に扱えない。
剣の扱いは私の方が上だ。
二人を相手に二合三合と打ち合って、一人は腕を斬り裂いて仕留めた。
その時点で、もう一人が逃げだそうとしたので脚を狙ったが、逃げ足が速く、うまくかわされて深傷には至らず、男は足を引きずって他の賊たちのところに逃げ戻った。
「速いな、女」
更新日:2009-09-25 18:44:27