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異能の男-序章 その1

その日、私は男を拾った。

あるじから、あるじの姪の嫁入り行列の護衛をするよう言いつかって、ヘスからラージールへ赴いた帰り道のことだった。

行列が通った表街道は、往来は多いがヘスまでは遠回りだ。
だから、ラージール山地を直接抜けていく裏街道を通って帰ることにしたのだが、そちらの道は山賊が出るからと脅かされた。
しかし、早くヘスに戻りたいという気持ちが勝って、私は山道を上がっていった。

山に入って二日間は街道沿いの村に泊まったが、三日目は早く山を抜けてしまおうと急ぎ、夕刻に着いた村を通り抜け、その先の村を目指した。
だが、予想より村は遠く、それから二時間ほど歩いても、まだ森を抜けることはなかった。
幸い夏の宵はいつまでも明るく、森の中も薄暗い程度、すっかり暗くなる深夜までにはいくらなんでも着けるだろうと、のんきに考えて歩いているときだった。
行く手のしっとりと柔らかな土と下草が沢山の足あとに踏み荒らされている。

(誰かが争った跡――、山賊か?)

気を引き締めて辺りを見回しても、もう人の気配はない。だが、道の脇にあるツガの大木の根本に人が倒れているのが見えた。
駆け寄ってみると、身体中のあちこちに傷を受けた若い男が腹を抱えるようにして、大きな身体を縮こまらせて横たわっていた。

「おい、大丈夫か?」

肩に手を置き男を引き起こすと、男は痛そうに顔を歪めてうめいた。
肩口に浅い刀傷があり、腕や腿、額からも血を流している。
顔にはひどく殴られた跡があり、腹は泥で汚れ、蹴られて痛んでいるようだった。
私はすぐさま、できる限りの手当てをしてやった。
傷口を水筒の水で洗っているとその水を飲みたがったので、皮袋の口をあてがってやると、男は飲み急いで喉を詰まらせ、せっかく流し込んだ水を全部吐き出してしまった。

「ほら、慌てるな、ゆっくり飲め」

おぼつかない手で皮袋をつかみ、ゴクリと喉を鳴らす男を見て、私は不器用なヤツだな、と内心思った。
その日は仕方なく、歩けない男を道の脇の草むらまで引きずってきて、そこで野宿をした。

翌日、馬車でも通らないものかと寝ている男をそのままにして、街道を張っていたが、人っ子一人通らず、結局その日もその場で野宿することになった。
私一人では私より頭一つ半ほども大きいその男を、担いで歩くことはできない。
ただ食料も限りがある。山賊がまた来やしないかと不安もある。
だからあと一日寝て、なんとか歩けるぐらいには回復してほしかった。
その夜になると、男は身体を起こし食事が取れるほどには回復していた。
丈夫な身体らしい。
だが、スープの椀を受け取りそこねてこぼしたり、パンを切るナイフで指を切ったり、とうてい怪我のせいとは思えないドジを踏んだ。

「不器用なヤツだな、おまえは」

とうとう、私は口に出してそれを言ってしまった。

男は気まずそうにうつむき、紫色に腫れた頬を引きつらせながら、もそもそと食事をしていたが、やがて、人心地ついたのか、おずおずと言葉を発した。

「まだ、礼を言ってなかった。助けてくれてありがとう」

「おまえ、名前は?」

「リオード、あんたは?」

「エイダだ」

「武人なのか?」

リオードは私の背にある剣を見つめながら言った。

「女だてらに?って顔をしてるな。そうだ、女だてらに武人をやってる。まあ、今は傭兵じゃなく用心棒をしているがな」

「だから女一人でこんなところを平気で旅しているのか」

私は笑った。

「おまえこそ、山賊が出る道をよく一人で平気に歩いていたな。武器はどうした?盗られたのか」

「武器なんて、持ってない。そんなもの、持ってたって使えないし、やられてしまうのは同じさ。おれはただ急いでいたんだ。カリンにいる妹に稼いだ金を早く渡したくて」

カリンはこの山地を抜け、ヘスへ向かう街道の途中から北へはずれ、三日ほど上ったところにある町だった。

「カリンか。じゃあ方向は私と同じなのだな。表街道を行けばよかったものを。急がば回れと言うだろう。結局、その金は盗られてしまったのか」

言ってから、自分も同じだと気がついて、思わず苦笑が漏れた。私も、急いで近道などしたものだから、こんなやっかいごとを拾ってしまったのだ。

「残忍な奴らだ。おれをわざと逃がして追い込んで、痛めつけて盗っていった」

「私がその金、取り返してやろうか?」

更新日:2009-09-25 18:17:27