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朋子

 最近、夫は口数が多い。朋子に見破られるのを恐れているのか、聞いてもいないことまでペラペラとしゃべる。これもいつものパターンなので、彼女は軽く受け流す術を心得ている。

 今夜の帰宅は深夜一時を回っていた。前もって遅くなると言っておいてくれれば、朋子も待たずに先に休むところであったが、なんの連絡もなかった。「もうすぐ帰ってくる」と思い、だらだらと深夜のサスペンス映画を観ながら待つことにした。
 一度観たような気もするが、犯人に心当たりがないところを見ると観ていないのかもしれない。ぼんやりと観ているうちに、意識が遠のきウトウトとしかけていた。

「ま、まだ起きてたのか」
 浩史のギョッとした声に起こされた。テレビの画面には聞いたことのあるメロディとエンドロールが流れている。
「ああ、おかえりなさい。遅かったのね」
 朋子は大儀そうに起き上がり夫を見上げた。

「あ、うん。帰ろうと駅まで行ったら、偶然大学の友人に会ってね、ほら、知ってるだろ、俺らの披露宴でお嫁サンバを唄ったやつ。あいつと会っちゃって、久しぶりだから、ちょっと話でもと、いつも行っているバー、ほら君にプロポーズした夜に飲んだところ、あそこへふたりで行ってね、話がはずんで。あいつリストラされて、今は奥さんに養ってもらってるんだって。毎日ハローワークに通ってるって言ってたよ」

「……ふ~ん」

 深夜にしては妙にテンションが高い。

 あやしい……

更新日:2009-08-19 19:27:32

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