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魔女

 翌朝、夫の朝食の準備をするのも馬鹿らしい気がする。
 例のパターンその三を実行する。一度捨てた野菜を拾い集めたサラダ、そしてこれまた犬専用のスポンジで洗った皿に、一旦床に落としたトーストを並べる。牛乳には便秘薬を少量たらす。

「ゆうべはどうだった ? ひさしぶりに会って楽しかった ?」
 話題にしないのも不自然かと、無理に自分から切り出したのではないかと疑ってしまう。
「ええ、楽しかった。でもね、彩華が酔ってしまってとんでもないことを言い出したのよ」
 朋子は夫の顔色がサッと変わったのを見逃さなかった。
「と、とんでもないことって ?」
「ううん、なんでもない。……ねえ、サチの仕事の話はどうなった ? 最近会った ?」
「エッ ? サチさん……全然会ってないよ」
 くず野菜のサラダを口に放り込みながら、頭をブンブンとふる。

「ちびでデブでハゲ……か」
「ん ? なんか言った ?」

──下剤入り牛乳で腹を下せばいい──

 今の生活を壊したくなければ、何があっても「知らぬ、存ぜぬ、騒がず」のポリシーは守り通さなくてはならない。
 しかし我慢することは美徳ではない。三パターンの実行だけで気持ちが晴れない場合はオプションがつく。
 オプションは自由だ。気の済む実行方法を考え出せばよい。

更新日:2009-08-19 19:35:01

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