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アルペジョーネへの想い

挿絵 150*150

 25年ほど前、友人から1本のカセットテープをプレゼントされた。それはチェロの巨匠、ロストロ・ポービッチ氏が演奏しているシューベルト作曲「アルペジョーネ・ソナタ D.821」だった。
このテープのソースはNHK-FMのクラシック番組から収録したものだが、現在のCDでは以下の録音と推察する。
Mstislav Rostoropovich(cello) Benjamin Britten(piano) July 1968 the Maltings, Snape,
London、キングレコード(KICC 9239)
 その何とも素晴らしく、そして切ない情感が漂う演奏に一気に魅了されてしまった。以来、アルペジョーネの情報収集に没頭してきた。

アルペジョーネとはなんだろうか、どんな楽器なのだろうか?

 音楽辞典によると、19世紀中期にこの楽器が流行して、ギターのように簡単なメロディと伴奏コードを奏でていたとされている。
1823年頃から約10年ほどは演奏愛好家がいたようだが、その後は衰退し現代ではほとんど観ることも、演奏されることもない。
衰退した楽器本体が無くて、代用の楽器でこれほどまでに名演奏をされ親しまれている曲は歴史的にも類を見ないだろう。

 収集分析していく上で不思議なのは、本来の楽器で演奏している記録に乏しくということだ。代用のチェロやビオラなどの楽器で演奏するのが多い反面で、ピリオド楽器としての存在がきわめて少ないことに疑問を感じた。
そんな単純な疑問からスタートして、いっそうのこと世界中の情報を探し出そうととんでもない挑戦の航海に乗り出してしまった。これが途方も無い苦難の連続になるとは思ってもいなかった。
インターネットで情報源のあたりをつけ、日本の音楽大学や図書館をさがしまわったのだった。
結果は残念ながらも、百科事典などから同じ情報源を共有するだけだった。
実際、新しいソースがなかなか見当たらず、楽器の全容写真はアルペジョーネ・ソナタの譜面にある表紙とCDの解説でしか観れなかった。

 この「アルペジョーネ・ソナタ」という曲を自作のアルペジョーネ楽器で演奏したいばかりに、楽器づくりに挑戦しはじめた。こうした幻の楽器を追い求めるのも一種の音楽ロマンではないかと思いつつ、楽器製作に関しては全く手がかりがないまま、バイオリン工房やアマチュア製作者団体にヒアリングし、手探りで楽器づくりのイロハから学び始めた。

 このように漠然とした疑問がきっかけとして、いまは幻となった楽器への探求の旅がはじまった。

更新日:2009-08-14 12:07:25

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