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5.告白

月は僕たちのいる砂浜の丁度真上に差しかかっていた。
海の色は先ほどよりも少し暗く見える。風は相変わらず優しく吹き,彼女のほのかないい匂いが僕を酔わせる。
「まず清水さんのことから言うわ。」
そう言ってケイコは思い出そうとするように小首をかしげた。
「清水さんがネットで中傷されたのは本当。でも誰が犯人なのかは本当に分からないの。ただ,清水さんが傷ついた。かなりひどくね。そして私に相談してきた。だって彼女の友達は・・・私しかいないし。清水さんは精神的にかなり参っていたわ。それでね。誰かを犯人に仕立て上げるしか彼女を救う道はないと思ったの。」
「それが僕って訳か!」
少し大きな声が出てしまって,自分でも驚いた。
ケイコが怯えてしまったらどうしよう。ああ,僕はまだケイコのことを想ってる。
「ごめんね……。」
ケイコはまた謝った。少し目が赤くなっている。僕はかろうじて冷静さを保った。
「それでね。中森君……のことが心に浮かんだの。そうしたらもう中森君に助けてもらうしかないって。」
「ちょっと待って!」
僕は口をはさむのを止められなかった。ケイコが何を言おうとしているかなんて分かっていた。
僕が(優柔不断で)優しいから何をやっても他の人に言わないで最後には許してくれるだろうと想ったのだろう。
悔しいけどその通り,あの体育館の地下室の中で僕はまったくケイコを責めてはいなかった。
だが口から出た言葉は心とは裏腹なものだった。
「僕はもうクラスメートの前に出られないかもしれないんだ。どうしてくれるんだ?それにどうして僕なんだ?先生とか,ほかにもっと力のある人だっていたじゃないか。」
「これが最後のチャンスかなって,思ったの。」
「チャンスって,何の?」
「中森君に伝えたいことを伝えるチャンス。」
僕はおかしな気分になっていた。
(僕がケイコを問い詰めていたはずなのに,いつのまにかケイコのペースで話が進んでいる。
いや,それよりも僕に伝えたいことって……まさか!?)
「そう,そのまさかよ。」
突然ケイコはいたずらっぽい笑顔を見せた。
「なっ。」
「言ったはずよ。ここは私の心の中。中森君の気持ちは自分のことみたいにわかるわ。」
(そうだった。ぼくはなんて間抜けなんだ。)
「わかるわ。今中森君が考えていることも。それから私をどうしたいのかも。」
そしてケイコは僕に引導を渡した。
「中森君はわたしとキスしたいと思ってる。」

更新日:2009-08-11 10:15:44

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