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小説

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知と愛

暮れから、ヘッセの「知と愛」を読んでいた。
押し入れをゴソゴソやってたら出てきて、これってもしかして、元祖ボーイズラブじゃなかったっけ?と腐女子根性が萌え出して読み始めた。そしたら、ボーイズラブといっても今流行りのラブラブ、イチャイチャではなく、あくまでも精神的な愛だった。触れ合うことも殆ど無い。ナルチスには、是非ゴルトムントを押し倒してもらいたかったのだが甘かった。

18歳のゴルトムントが、マリアブロン修道院に入学するところから物語が始まる。
ゴルトムントは、若い指導僧ナルチスに一目で惹かれてしまう。ナルチスもゴルトムントを一瞬で愛しいと感じる。お互いに好意を持っていると分かり合っているのに、顔を合わせれば議論ばかりして「自分達は、相容れない違う世界を持つ者同士なのだ」とお互いに知らされる。

ゴルトムントは愛らしく、人への愛情を素直に表現できる少年。ナルチスは、今で言うとツンデレ。知的で思慮深く、ゴルトムントを愛していてもなかなか態度には出さない。
この二人さっぱりラブラブにならないな、つまんないな~などとノンビリ読んでたら物語はどんどん甘ったるくない方へと進んで行く。それどころか、ゴルトムントは修道院を飛び出して流浪の民となり、女から女へと渡り歩き、成り行きから男を2人殺し、盗みをし…。

ヘッセは、人間の業とはこれほどまでに凄まじいものかということを、ゴルトムントを通じて突きつける。なんだか、頭をひっぱたかれたような感じだ。
…そうだよね。人間、綺麗な部分だけじゃない。命の危機に直面すればうろたえるし、人を押しのけてでも自分だけは助かろうとするし、法律違反だって犯すし、精神を病んだりもするだろう。

しかしな~私がゴルトムントだったら、安住の地であろう修道院から絶対出ないけどな~。飢えたり、凍えたり、絶えずオオカミの襲来を恐れたりしながら放浪の旅を続けなきゃいけないなんて恐すぎる。「君は神職向きじゃない。芸術家向きだから、ここにとどまっていてはいけない」とナルチスに言われたって一生修道院で安泰に引きこもって生きると思う。ところが、ゴルトムントはナルチスに諭されて開眼し、身ひとつで出ていっちゃうんだからすごい。何のアテも無いのにである。

その後、木彫り職人のニクラウス親方と出会い、彼の元で修業し、やっと安住の生活が用意されたのに、
「私はまだ人類の母イヴを作っていない。イヴの製作をするには、旅をしなければならない」
とか訳わからんこと言って、またいつ終わるとも分からない流浪の旅に出てしまうのだ。

どうして、せっかく手にいれた幸せを捨ててまで放浪なんかするんだい、ゴルトムントよ。そりゃニクラウス親方だって怒るよ、自分の娘リースベトをゴルトムントの嫁に、とまで考えてたんだから。と突っ込みたくなるけど、彼には自分のなすべき道がちゃんと見えてたんだろうな。愛や欲やその他綺麗な物もドロドロした物も全て内包したイヴの像をいつかこの手で造らなくてはいけない、その為にはもっと様々な物を見聞きし、あらゆる感情を体験しなければならない、と。

…人って、けっきょく魂が強く望む方向に行くしかないのだろう。周囲から見たらどんなに馬鹿げている事だって、本人がどうしてもしたいんだから、それはそれで正しい選択なのに違いない。

最後まで読んだが、この物語は私の頭では理解出来ない部分も多かった。ゴルトムントとナルチスが議論しているセリフの内容が、抽象的でチンプンカンプンだった。
ただ、時折現れるドイツの森林や草原など、自然の美しい描写は素晴らしかった。ゴルトムントが入学したばかりの頃の、ナルチスとの心の交流も初々しくてピュアで良かった。放浪を続けた後ナルチスと再会し、やっと理解しあえる場面に感動した。

疑問が一つ残った。
ゴルトムントは、イヴの像を製作する為に放浪の旅に出たのに、けっきょくイヴの像を作らなかったことだ。長い放浪を終え、またマリアブロン修道院に戻りナルチスに彫刻を依頼されるのだが、製作した人物像は、少年時代に修道院でお世話になったダニエル院長やニクラウス親方、放浪時代に出会った恋人リディアだけ。イヴは作らないの?と思ったけど…もしかしたらイヴというのは、彼らの像全てのことだったのかな、と思ったり。

ラストは決してハッピーエンドではない。でも、ナルチスと深く心を通わせることの出来たゴルトムントにとっては、あれで幸せだったのかも知れない。

更新日:2010-01-03 16:08:26