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「どうしてですか。お礼をするのが悪い事ですか。ここはタイですよ。これがタイのやり方ですよ。スピード違反で捕まっても、お金を渡せば見逃して入れるんです。日本は違うのですか」

「ティアンさん、日本ではそんなことやらないんです」と幸子。「でもコボチャン、この国にはこの国のやり方があるんだから、いいんじゃないの。考え方によっては、こういうのって便利ですよね」

「冗談じゃないよ。僕たちは何の為にここまで来たと思うの。ただ食べ物を、難民の人たちに配る作業をする為じゃないはずだよ。うまく言えないけれど、僕たちがここで働く本質的な意味が問われていると思うんだ。何週間か待って、それで通知が来るなら、それまで待てば良いよ」

「待っているだけでは、通知は来ないかもしれないよ」助手席から降りてきたジアップが言った。

 「ここでは良くあるのよ。こう言う事はね。兵士たちも安月給だから、小遣い稼ぎをしたいの。さ、みんな、今いくら持ってんの」

 「私は100バーツあります」幸子が控えめな声で言った。

 「私は20バーツだよ。お昼ご飯に必要だから」とティアン。

 「はい、コボチャン、あんたは」ジアップはかなり命令口調になった。

 「僕は・・・200バーツとあとちょっとだけど・・・」財布の中を見ながら不機嫌そうに言った。

 ジアップは幸子と蓮根から数枚の紙幣をむしり取った。そして兵士に向かって笑顔でお辞儀をして、隣の部屋に一緒に入って行った。
しばらくして、部屋から出てきたジアップは、無言のまま外に出て、車に乗った。後の三人も彼女に続く。

 車が動き始めると、ジアップが言った。
 「いつもより200バーツも安くしてもらったわ。コボチャン私に感謝しなさいよ」

更新日:2011-08-06 10:54:34

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