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 昼休み中、僕はゲームブックことを訊いて回っていると、意外にその名前が知れ渡っていることを知った。訊いた話の中には友が語っていなかった内容もあった。
 噂が流れ初めたのはおよそ五年ほど前から。
 ゲームブックはこの町にだけ出る霊で確かに実在するものだという。それは知っている。僕も逢ったから。中には僕と同じく本当にゲームブックに出くわしたという人もいた。
 その人が語るには、白いワンピースを来た少女がすごく簡単な問題を出してきた、とのことだ。僕のところに出た時と同じだ。ただ少し違ったのは、その人が語ったゲームブックの印象だ。終始能面のような無表情で見つめられて、心臓が止まりそうなほど怖かったという。

 「んー……そうかなぁ?」

 そのことには、僕は首を捻った。
 確かに表情に乏しい子だったけれど、そんなに怖い感じはしなかった。その人は、怖い怖いと思っていたから、本当に怖く感じただけなんじゃないだろうか?
 他にもゲームブックに出会ったという人は何人かいて、その人達の話も訊いた。訊けば訊くほどに僕はゲームブックへの興味を募らせていった。
 何でこんなに気になるのかは分からない。だけどあの子のことを知りたいという欲は止まらなかった。
 ゲームブックに逢う今夜までに、もっとあの子のことを知っておきたい。
 そのために僕は昼休みの時間全てをゲームブックのことを訊き込むのに費やした。
 そうしていると、昼休みが終わる頃、僕はいつの間にか『オカルトマニア』の称号を得ていた。





 「前に君に逢ったってゆう人達に逢ったよ。訊いた限りじゃ、君、全敗らしいね」

 僕が語りかけると隣に座っている少女は小さく頷いた。
 白い地平線の真ん中、要するにゲームブックが見せる夢の中で、僕は彼女と並んで座って話し込んでいた。 
 少女は約束通り今晩も来てくれた。初めに昨日出したみたいな簡単な問題を僕に出してきたけれど、今回はすぐに去ろうとせずに、その場に留まった。その時僕が「立ち話も何だから……」といって少女に座って話すことを提案して、今のような状況に落ち着いている。
 僕はなるだけフレンドリーに話し掛けてはいるけれど、少女はまだどこか遠慮がちというか、緊張している様子で、僕が話し掛けても顔を伏せたまま、小さく頷いたり首を振ったり、わずかに反応を示してくれる程度だった。

 「君、もしかして本当は優しかったりする? 人を引きずり込みたくなくってわざと簡単な問題を出してるとか?」

 少女は首を振った。そしてぽつりと呟く。

 「……そうゆうの……ないです……」
 「え?」
 「夢の中に人を引きずり込むとか……そうゆうこと……私、出来ません……」

 ゲームの出題以外で初めて、少女のまともに喋っている声を訊いた。口調から察するに、それは気持ちの問題ではなく可能不可能の話で出来ないと言っているのだろう。その表情にはどこか寂しそうな色が浮かんでいた。

 「……みんな、私が出たら怖がるけど……私、何も怖いこととか……するつもりないですから……」

更新日:2009-11-11 02:15:40

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