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休暇で北海道を訪れた西川は
カクテルのうまいバーの冷房に
はぁ、と安堵のため息をつき、
オッサンのようにおしぼりで顔と首を拭いた。


「…西川さん、美形台無しですよ、
その行為。」


「美形って先生、
こっちはもう三十路ですよ。
ちっさいからって可愛いってもんでも。
おっさんです、おっさん。
ちっさいおっさん。」


…肌も綺麗だし、
たとえ30でも
やや年下の私からみても
全然可愛い西川だったが、
本人はもうおじさんになることを決めたようであった。

…そのほうが楽なのだ。
わかる。


「まぁ千歳についたときは
ああ流石に北海道は涼しいなと
まるで天然の冷房みたいだと思いましたが、
半日たつともう体が慣れてしまって暑い。
しかも場所によっては冷房がなかったりするんだから。
しんどい。

…先生んとこは
冷房いれられてますか?」


「いや、いれてないんですよ。
こういうところで涼めばいいと思って。」


「はあ、確かにここは涼しい。」

でも日昼
いらいらしてこられませんか?
クーラーいれられたらよろしいのに。
そうしたらまた名作が産まれますのに。」


「…あれは企画勝ちですよ。
西川さんの周辺でも
何かいい話がありましたら是非まわしてください。
寝ないで頑張りますから。」


西川は笑ってお世辞を続けた。
私がぽや〜っと聞いていると、
不毛に感じたのか、話をかえた。


「…そうだ、先生、
滅っ茶涼しくなるカクテルがあります、
出来るか聞いてみましょう。」


西川はそういって、注文をとりにきた
美しい女のバーテンダーに
たずねた。


「モヒートありますか?」

「ございますよ。」

「…二つ。」


西川はその簡単なレシピと、
キューバのカクテルであること、
ヘミングウェイがすきな酒だったことを
教えてくれた。


運ばれて来たカクテルには、
生のミントの葉がたっぷり入っていた。

びっくりするほど甘いカクテルだった。

半分ほど飲むと、
本当に寒くなってきた。
多分ミントのせいなのだろう。
なるほど、キューバの過酷な太陽と
真っ向戦えるに違いないカクテルだった。


更新日:2009-07-21 13:01:54

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