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12 帰ってきてみたらこの始末
夫が会社に行っているからといって
日がな一日真面目に働いているとは限らないんですよ…
金づるを捕まえたことに安心しきって
夫をいいだけ責めている若く美しい人妻に
そのうちいつか笑ってそうささやいてみたい。
死ぬまでの間に一度くらいは…
最近、テレビを見ていると、私はときどきそう思う。
もっとも、テレビを見ているとき以外は
思い出しもしないので
機会があっても
たいていうっかり忘れてしまうのだが。
明け方、携帯電話の電源を
冷たい顔で切っていた西川を見たとき
そのことを思い出した。
帰ったら修羅場なんだろうけれど
奥さんもまさか相手が
成人男性だとは思わないだろうなぁ…と
他人事のように思った。
「またデートしてくださいね、西川さん。」
「いつでも。
…じゃあお気をつけて。
あ、これ、暒太郎くんにお土産です。
よろしくお伝えください。」
「ありがとうございます。
セイは西川さんが好きですよ。
また遊びにきてくださいね。」
そう言うと、西川は苦笑していた。
出発ゲートで手をふって別れるとき
少しせつない顔になった。
私に欲情してくれて、情熱的に抱いてくれた有り難い男だ。
私はキスして別れたかった。
でもそれは、…無理だ。
女とでも無理だろう。
時間があったので、
出発ロビーで私もセイのためのお土産を買い、
ふと思い立った。
千歳までセイを呼び出して、
空港でちょっと買い物したり、
ついでに食事もしたらいいではないか、
と思った。
私はセイに電話をかけた。
「あっ、セイ?
これから飛行機に乗るよ。」
「あ、…うん、」
あれっ、と思った。
なんだか様子がおかしい。
「セイ、何かあったの?」
「うん…いや、別に。」
そのとき
誰か女性が叱りつけるかのように
とがめる声が
電話の向こうで聞こえた。
…誰かいる。
私は少し考え、言った。
「…出て来られる?」
「…多分。」
「空港までおいで。」
すばやく言い交わし、
到着時刻を短く告げて、
電話を切った。
…誰か?
そんなの、セイの母親に決まっていた。
少し考えれば、すぐにわかることだった。
日がな一日真面目に働いているとは限らないんですよ…
金づるを捕まえたことに安心しきって
夫をいいだけ責めている若く美しい人妻に
そのうちいつか笑ってそうささやいてみたい。
死ぬまでの間に一度くらいは…
最近、テレビを見ていると、私はときどきそう思う。
もっとも、テレビを見ているとき以外は
思い出しもしないので
機会があっても
たいていうっかり忘れてしまうのだが。
明け方、携帯電話の電源を
冷たい顔で切っていた西川を見たとき
そのことを思い出した。
帰ったら修羅場なんだろうけれど
奥さんもまさか相手が
成人男性だとは思わないだろうなぁ…と
他人事のように思った。
「またデートしてくださいね、西川さん。」
「いつでも。
…じゃあお気をつけて。
あ、これ、暒太郎くんにお土産です。
よろしくお伝えください。」
「ありがとうございます。
セイは西川さんが好きですよ。
また遊びにきてくださいね。」
そう言うと、西川は苦笑していた。
出発ゲートで手をふって別れるとき
少しせつない顔になった。
私に欲情してくれて、情熱的に抱いてくれた有り難い男だ。
私はキスして別れたかった。
でもそれは、…無理だ。
女とでも無理だろう。
時間があったので、
出発ロビーで私もセイのためのお土産を買い、
ふと思い立った。
千歳までセイを呼び出して、
空港でちょっと買い物したり、
ついでに食事もしたらいいではないか、
と思った。
私はセイに電話をかけた。
「あっ、セイ?
これから飛行機に乗るよ。」
「あ、…うん、」
あれっ、と思った。
なんだか様子がおかしい。
「セイ、何かあったの?」
「うん…いや、別に。」
そのとき
誰か女性が叱りつけるかのように
とがめる声が
電話の向こうで聞こえた。
…誰かいる。
私は少し考え、言った。
「…出て来られる?」
「…多分。」
「空港までおいで。」
すばやく言い交わし、
到着時刻を短く告げて、
電話を切った。
…誰か?
そんなの、セイの母親に決まっていた。
少し考えれば、すぐにわかることだった。
更新日:2009-07-26 11:11:52