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西川が紹介してくれたその人物は
雑誌の編集者で、栗原といった。
都筑の話をしたあとに会うと
拍子抜けするほど良識のある男だった。

…ほっとしたのも確かだった。

やー、助かりました、あてがなくて、
困っていたんです、
と栗原は言い、
私をセンセイセンセイとひとしきり持ち上げてから
企画を説明し、
とりあえず、と文字数と締め切りを言った。
私は了承した。
一回目が通れば、少なくとも数回は続きそうな雰囲気だった。



彼が西川にくどいほど礼を言って
会社の金で我々のぶんも会計をすませ
会社に戻った後、
私と西川は店をかえた。


「ご滞在はいつまでですか。」


「一週間と思ってます。
原稿今日明日で書いちゃって、
栗原さんに渡して帰りますよ。
帰ったらセイと遊びたいし。」


西川は苦笑した。


「…お暇ありましたらお会いしませんか。
他にも何人か紹介しますから。
昼間もお時間あるとよろしいんですが。」


「昼間時間とれますよ。
有り難いな。是非。
…セイに挨拶回りして
仕事とってこいっていわれてしまって。」


「居候がエラそうですなァ。」


「あはっ。まあいいですよ。
セイは心配してくれてるんです。
セイからみると私は物書きの肩書きに隠れたプー太郎らしいから。

東京で少しいろいろ情報しいれて勉強してこいと
言われました。」


「このくそ暑い時期に勉強ですか。
まずモヒートでしょぉ。」


「そうですね。
…まあ、でもモヒートは
芝居をみたあと飲んでも涼しいでしょうし。」


二人で静かなカクテルバーに入り、
またミントのたっぷり薫る甘いモヒートを飲んだ。
札幌でのんだものよりもキリッとした味わいがあった。
…涼しい心地になった。


「…挨拶回りって、都筑にも会うおつもりですか?」


「…私は会っておきたいけど…
多分会ってもらえないんじゃないかな。
ずっと会ってくれないんですよ?」


「…」


「新作書いたら他社かなあ。
どこがいいと思います?」


「まあ、中によりますけど。」


「そうですね。できあがったら相談に乗ってください。」


「喜んで拝見しますよ。」


「ありがとうございます。」


私は西川に滞在スケジュールと
滞在先を伝えた。
西川はそれを、丁寧に手帳に書き込んだ。


更新日:2009-07-25 09:00:25

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