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9 私だってたまにはお仕事するんだ

もうすっかり秋の気分でいた私は
東京の暑さに打ちのめされた。

いつも思うが、
東京は南国だ。亜熱帯だ。東南アジアだ。

自分が冷凍庫から取り出された
アイスキャンディーのごとく
どろどろに溶けていくような心地がした。


夕立が降ると、自然と
「スコール」という言葉が浮かんだ。


雨が止んだころ、西川が現れた。


「お待たせしました、先生。
こっち、暑いでしょう。
へばってらっしゃいますな!」


西川は陽気だった。
これでも涼しくなって来ておりますよ、
などと笑って言った。


「…ドロドロです…。
東京も夏はかりゆしウェアでいいんじゃないですか?」


「できればそれに短パンがいいですな!
足は裸足に島草履で!

洋装ひろめた明治の偉人は
責任をとってもらいたいものです。

…食事にしましょう。
食わなきゃもちません。」


西川が綺麗な店へつれていってくれた。
創作和食、などと看板の隅にかかれていた。
店は涼しく、
席につくと、すうっと汗が引いていった。

引き合わせてくれる相手は
7時に職場を抜けてくるから、
ぼちぼちなにかつまんで待とうという話になった。

7時になっても仕事が終わらないのはもとより
どうやら打ち合わせがおわったら
オフィスに戻るらしい。

…過酷な職場だ、と思った。


「なに、ヤツは打ち合わせのたびに
会社の金で店に入り放題です。
豪勢な夕食ですよ。
私もおすそわけにあずかれて
光栄ですな。」


西川はそういって笑い飛ばした。


更新日:2009-07-25 08:52:11

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