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セイが来た頃、私は買い物が億劫で
生協の宅配を頼んでいた。
一週間に一度、
野菜やおかずになりそうなものを
まとめて配達してもらう仕組みだ。

だが今は楽しみの一つとして、
セイと一緒に
買い物にいくようになっていた。


ある日セイは思い立ち、
料理の入門書を買ってきた。
しばらく色々な残骸を作ったあげく、
ある日を境に、突然、
完成した食事を作ってくれるようになった。

最初はおかず一つからはじまって、
徐々に増え、
1ヶ月以内に一汁三菜がそろった。



北海道が全国に先駆けて
一足早く
秋の気配になったころ

その日もセイの作った料理で
二人で食事していると、
久しぶりに西川から電話がかかって来た。

西川の知り合いに、
適当なエッセイが書けてある程度名前の知れた人間を
探している編集者がいるから
会ってみないかという話だった。

たまには何か書かないと
世間からあっという間に忘れられてしまうので
私はその話を受けた。

西川が東京で会わせてくれるというので
日程を約束した。

セイに話すと、セイは喜んでくれた。


「そーさんがオレと
遊んでくれるのはすごく嬉しいけどさ、
たまに仕事してくれないと、
なんか心配だもん。」


「そうなんだよね、
私もセイと遊べるのは嬉しいけど、
たまに仕事しないと不安でさ。

今はまだ困ってないけど、
お金も無尽蔵に湧くわけじゃないからね。

どこかの雑誌に自分の文がのってると、
なんとなく安心だしさ。」


「そうだよ。
少しでもお金が入るのと、全然はいらないのじゃ
まるで気分が違う。
その話、決まるといいね。

…3〜4日いってくる?
それとも一週間くらい?」


「宿泊費がもったいないから、
2泊3日くらいでいくよ。」


「…ゆっくりしてきてもいいよ。
オレ、自分で飯作れるようになったし…

別に、悪いこととかしたりしないよ。
いつもどおり普通にしてるからさ。
心配ないよ?
出かけるときは、ガスや戸締まり気をつけるし…
なんなら、掃除機くらいかけとくよ。」


「セイのことを疑ってはいないけど、
ホテル代高いだろ。
あっちに泊めてもらえるような知り合いもいないし。」


「…でもそーさんは、なんていうか、
要するに、本書くひとでしょ?

たまに東京の大きな本屋さん行ったりとか、
話題の舞台や東京でしかやらない展覧会みたりとか、
流行しらべたりとか、
しなくていいの?

出版社の知り合いと飲んだりとか、
しといたほうがいいよ。
西川さんみたく、
誰かが仕事紹介してくれるかもしれない。」


「…」


…セイにネタ漁って営業してこいと言われるとは思わなかった。


「そーさん、思い切って、自己投資だと思って、
一週間くらい、あちこちまわっといでよ。
せっかく行くんだもん、飛行機代が勿体ない。
ついでに鬼怒川温泉か箱根でも行って来たら。」


…それは流石にやりすぎだ。

だが
日程に関しては、私はセイの言うことをきくことにした。
一週間ほど行ってくることに決め、手配した。



更新日:2009-09-28 13:31:32

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