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そんな私のようすを見かねたセイが、
ある日、また私を外出に誘った。
「…そーさん、
車があるなら少しドライブしない?
そーさんが平気ならニセコとか支笏洞爺でもいいし、
運転久しぶりでアレなら、
小樽とか恵庭とかでもいいし。
積丹も楽しいよ。」
「ああ、いいよ。」
私も毎日オッサンを探す日課に
いささかの倦怠を感じていたので
二つ返事で了承した。
お弁当を作って持っていくことにした。
梅と昆布のおにぎりに、卵焼き。
インスタントのカップみそ汁と、魔法瓶にお湯。
セイは、お茶とキャラメルを二人分持った。
道がわかりやすいので、
海沿いを小樽方面に走ることにした。
ラジオでは陽気な、夏の歌がかかっていた。
小樽を早々に通過して余市の道の駅に立寄り、
(ここは名物がいろいろあるんだそうだ、
二人でアップルパイを買い食いした。
うまかった。)
そのあと積丹半島へいった。
一気に神威岬に登り、
車を降りた。
風は涼しく、日差しはつよく、
断崖の下の海が青くて美しかった。
ソフトクリームを買い食いしていたら、
セイが神妙な顔で言った。
「そーさん、話があるんだ。」
「なーに?」
「…最近、そーさん、
コビト、めっちゃくちゃ熱心に探してるでしょ?」
私はセイの顔を見た。
セイは真剣だった。
「…うん。」
「…やめなよ。」
「…どうして。」
「どうしてあんなもん、見たがるの?
怖くないの?」
「…どうしてってこともないけど…
なんだかすごく見てみたい。
…会ったこともないから、
怖いかどうかはわからないな。」
「…まあ、…そりゃ会ったことないのは
仕方ないけど…」
セイはブツブツいいながら、
ソフトクリームをなめた。
「…そーさん、あのね、
…連中は…なんてーか、ううん、
見つからないよ。たぶん。」
嘘だよ、という種あかしなのかな、
と思った。
「…探しても無駄ってこと?」
「…うーん。
てゆーか、多分…そーさんは、
ホントは何度もみてると思う。
でも
目に入ってないんだよ。」
嘘なんだ、という告白ではないらしい。
私は興味を覚えた。
「…霊感みたいなのが必要なの?」
「霊感てか、しらないけど…
そーさん、山菜とったことある?」
「山菜?…いや、ない。」
ソフトのコーンをばりばり噛むと、
セイは手招きして、私を坂道に連れて行った。
そのまましばらく二人で散策路を登った。
「…そーさん、わらび、みたことある?」
「あるよ、煮物にいれるやつでしょ。
スーパーで束ねて売ってる。」
「うん、このへん、いっぱいわらびが開いてる。
開いてるわらび、わかる?」
私は首を振った。
セイは近くにあったシダをつまんで言った。
「これがそう。」
「え…そうなんだ?!」
「ん…。
そーさん、実はすぐそばに、おなじみの、
開いてない若いわらびあるよ。
見つかる?」
私は熱心に探したが、
まったく見つけられなかった。
「…ほら、ここを見て。」
セイはわたしのすぐ前に生えていたわらびを
つついて揺らした。
本当にすぐ目の前だった。
私は驚いた。
「…全然みえてなかった…」
「でしょ。
そもそも、どういうぐあいに生えているのか、
想像もつかなかったでしょ。
煮物になってるあれが
どう生えてるんだろうって、
多分縦になってるんだろうけど、…
て、その程度がせいぜいでしょ。
正直、ここにこう生えてるとは思わなかったでしょ?
…連中もそういう在り方してる。
だから逆に
見え出すとめったやたら見えるよ。
わらびとりも一本みえると
あとは嘘みたいに続けて採れるって言うじゃない。
でも、ふつうの人は、連中なんか見ない。
見たってしょうがないし。
見ないで、いいんだよ、
わらびと違うもの、食べれるわけじゃない。
そーさんなんか、わらびだって。
お母さんがスーパーで買う。
煮物の中で個別認識できれば
生えてる形状なんて、知らなくてもいいんだもの。」
「…」
「ね、そーさん。
せっかくの静かな生活、
あいつら探して台無しにするの、やめなよ。
オレ、すごく不安。
そーさん、あんなの、かまっちゃ駄目だよ。
オレ怖い。」
セイはそう言った。
ある日、また私を外出に誘った。
「…そーさん、
車があるなら少しドライブしない?
そーさんが平気ならニセコとか支笏洞爺でもいいし、
運転久しぶりでアレなら、
小樽とか恵庭とかでもいいし。
積丹も楽しいよ。」
「ああ、いいよ。」
私も毎日オッサンを探す日課に
いささかの倦怠を感じていたので
二つ返事で了承した。
お弁当を作って持っていくことにした。
梅と昆布のおにぎりに、卵焼き。
インスタントのカップみそ汁と、魔法瓶にお湯。
セイは、お茶とキャラメルを二人分持った。
道がわかりやすいので、
海沿いを小樽方面に走ることにした。
ラジオでは陽気な、夏の歌がかかっていた。
小樽を早々に通過して余市の道の駅に立寄り、
(ここは名物がいろいろあるんだそうだ、
二人でアップルパイを買い食いした。
うまかった。)
そのあと積丹半島へいった。
一気に神威岬に登り、
車を降りた。
風は涼しく、日差しはつよく、
断崖の下の海が青くて美しかった。
ソフトクリームを買い食いしていたら、
セイが神妙な顔で言った。
「そーさん、話があるんだ。」
「なーに?」
「…最近、そーさん、
コビト、めっちゃくちゃ熱心に探してるでしょ?」
私はセイの顔を見た。
セイは真剣だった。
「…うん。」
「…やめなよ。」
「…どうして。」
「どうしてあんなもん、見たがるの?
怖くないの?」
「…どうしてってこともないけど…
なんだかすごく見てみたい。
…会ったこともないから、
怖いかどうかはわからないな。」
「…まあ、…そりゃ会ったことないのは
仕方ないけど…」
セイはブツブツいいながら、
ソフトクリームをなめた。
「…そーさん、あのね、
…連中は…なんてーか、ううん、
見つからないよ。たぶん。」
嘘だよ、という種あかしなのかな、
と思った。
「…探しても無駄ってこと?」
「…うーん。
てゆーか、多分…そーさんは、
ホントは何度もみてると思う。
でも
目に入ってないんだよ。」
嘘なんだ、という告白ではないらしい。
私は興味を覚えた。
「…霊感みたいなのが必要なの?」
「霊感てか、しらないけど…
そーさん、山菜とったことある?」
「山菜?…いや、ない。」
ソフトのコーンをばりばり噛むと、
セイは手招きして、私を坂道に連れて行った。
そのまましばらく二人で散策路を登った。
「…そーさん、わらび、みたことある?」
「あるよ、煮物にいれるやつでしょ。
スーパーで束ねて売ってる。」
「うん、このへん、いっぱいわらびが開いてる。
開いてるわらび、わかる?」
私は首を振った。
セイは近くにあったシダをつまんで言った。
「これがそう。」
「え…そうなんだ?!」
「ん…。
そーさん、実はすぐそばに、おなじみの、
開いてない若いわらびあるよ。
見つかる?」
私は熱心に探したが、
まったく見つけられなかった。
「…ほら、ここを見て。」
セイはわたしのすぐ前に生えていたわらびを
つついて揺らした。
本当にすぐ目の前だった。
私は驚いた。
「…全然みえてなかった…」
「でしょ。
そもそも、どういうぐあいに生えているのか、
想像もつかなかったでしょ。
煮物になってるあれが
どう生えてるんだろうって、
多分縦になってるんだろうけど、…
て、その程度がせいぜいでしょ。
正直、ここにこう生えてるとは思わなかったでしょ?
…連中もそういう在り方してる。
だから逆に
見え出すとめったやたら見えるよ。
わらびとりも一本みえると
あとは嘘みたいに続けて採れるって言うじゃない。
でも、ふつうの人は、連中なんか見ない。
見たってしょうがないし。
見ないで、いいんだよ、
わらびと違うもの、食べれるわけじゃない。
そーさんなんか、わらびだって。
お母さんがスーパーで買う。
煮物の中で個別認識できれば
生えてる形状なんて、知らなくてもいいんだもの。」
「…」
「ね、そーさん。
せっかくの静かな生活、
あいつら探して台無しにするの、やめなよ。
オレ、すごく不安。
そーさん、あんなの、かまっちゃ駄目だよ。
オレ怖い。」
セイはそう言った。
更新日:2009-09-28 12:59:13