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西川は結局、
暒太郎と寿司を食べて、
千歳の前泊をキャンセルして、
飛行機を夜のものに変更して、
次の日までいてくれた。

熱は翌日37度台まで下がり、
西川は安心して午後に帰って行った。
セイが千歳までおくるといって、
ついていってくれた。

…セイは朝になると、
私が何も言ってないのに、
西川に対して敬語になっていた。
どうやら昨夜私が眠ってから、
西川はセイに躾を断行したらしかった。

…申し訳なく思った。
わたしがしなければいけないことなのに、
西川に手間をかけさせ、かつ、
セイは他人であるところの西川に叱られたのだ。
二人ともいい気分ではなかっただろう。

敬語なんて、ごっこ遊びだよ、
人生の先輩ごっこと後輩ごっこ…

そんなふうにでも言えば、それで済むことだったろう。
セイはそういうゲームが嫌いでない。
我ながら、そんなことぐらい
とっとと気がついてもよさそうなものだった。

…憂鬱だった。


セイは夕方、
千歳空港で買ったおいしいお菓子を抱えて、
ほくほくと帰ってきた。


「…そーさん、
食べれそう?
おにぎりかってきたよ。
千歳でしか売ってないやつ。」


「…うん、食べてみようかな。
おなかすいたよ。」


「よかった、よくなって。
…水もってくるね。」


セイは別に機嫌を悪くしたりはしていなかった。

買ってきてくれたおにぎりは
びっくりするほど美味しかった。

セイも私の部屋で、
一緒におにぎりをたべた。


「そーさん、
怒ってる?」


「え…何を?」


「オレ勝手に西川さんよんじゃって…」


「いや、全然だよ。
西川さんにはちょっと申し訳なかったけど、
友達だしね、別にいいだろう。

…私が寝込んで、セイも手間だったね。
西川さんがきてくれて
少し助けになった?」


セイはおずおずうなづいた。


「…オレ、健康優良児でさ、
風邪とかあまりひいたことないの。

熱でても、一晩くらい寝てたらなおっちゃうし。
8度くらいあっても、平気で学校いけたし。
親とか教師も気づかないし、
体育とかやったら、下がっちゃう。

むしろ、じっと一日寝てるとか、
我慢できないくらいで…。

だからよくわかんなくて…。
役にたたなかったね。

西川さんは、大人だなーって思った。
てきぱきしてた。
…なんかあれ見て安心した。


…それに、
オレの態度が悪かったら
そーさんが困るんだって西川さんに言われた。

…なんか、オレ、そーさんに
ずっとタメ口だよね。
…ホントは怒ってる?」


「あ…セイ、それはね…」


私は少し考えて言った。


「…よその大人の人には、敬語のほうがいいな。
でも、私は今のままでいいよ。
セイと友達みたいで楽しいし…
それに、家族なんだし。」


そういうと、セイは
ぱーっと明るい顔になって笑った。


「あっそう。よかった。
敬語なんて、他人みたいだもんね!
今度から、よその人には敬語使うよ。」


「うん、そうだね。」


「…お水もってくるよ。」


「ありがとう。」


セイはグラスを持って、水をくみにいった。



更新日:2009-09-28 12:00:10

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