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第四巻  母



「どうだ、ヒロ!この刀は」

俺は知っていた。

『人物、振る舞いともに尋常。好漢である』と賞して、銘刀一振りを織田信長から与えられたものだという事を。
久綱は妙な魅力のある武将で「久綱には甘すぎる」と言われるほど大物武将からの評価が高く、
罪すらいつの間にか有耶無耶になってしまうほどだった。

「素晴らしいですね」
「ヒロにわかるのか?」
「えぇ、銘刀というのは凛としたものがありますから」
「そうか」

久綱は嬉しそうに笑う。

「織田の殿様から直に戴いたものだ」
「それは凄い」
「ヒロの時代では織田の殿様は有名なのか」
「それはもう。武将の中で一番名が知られてます」
「そうか・・・そんなに有名なのか。では戦は無くならないな」

そう寂しく呟く。
久綱は戦を憎んでるようだ。
そして織田信長がいる限り戦は無くならないと思っている。
事実、そうなのだが。

「久綱さま、それは」
「ん?」
「これだけは言います。織田信長は謀反にあいます」
「なんと!それで」
「その死に様も立派でした」
「そうか」
「だから歴史に名前を刻まれたんです」
「・・・ヒロ、戦はいつまで続くんだ?」
「次の代に・・・おそらくそうは続かないと思います」
「次の代とは?」

言って良いものだろうか。

「それは・・・」
「聞かぬ方がいいのか」
「羽柴」
「秀吉殿か!」
「はい。豊臣秀吉と名を変わられて関白にもなられます。その頃には戦は無くなっています」

久綱はホッとしたように「そうかそうか」と小さく頷く。

「あの」
「わかっておる。誰にも言わぬ。安心しなさい」

まるで年をとった山科と一緒にいるようで可笑しかった。

「なんじゃ?」
「いえ、久綱さまは私の一番親しい友人とよく似てるんです」
「そうか。どんな人物なんだ?」
「そうですね・・・尊敬に値する好人物です。でも子供のような所もある・・」
「嬉しそうに話をするな。そうか、そのような人物がヒロの傍にいたのか」
「でも、もう会う事は・・・」
「ヒロ、お前は帰らねばならない」
「久綱さま」
「必ず帰るんだぞ。そして戦のないお前の時代で幸せになるんだ」

嬉しかったが久綱と別れるのが辛いのも事実だった。

その時、声がした。

「久綱さま、別所長治さまがお出ででございます」
「別所殿が?お通ししてくれ」

その名を聞いて俺は震えた。
別所長治!謀反の張本人だ!


更新日:2009-07-02 11:59:29

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