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第5話

「おぉ、久々の日本~!!」

飛行機から降りながら、賢護が嬉しげな歓声を上げた。

柚月も懐かしい独特の匂いを孕んだ空気を肺いっぱいに取り込んで、安堵の笑みを漏らした。

柚月たちは、これから日本で個展を開くのだという戒斗と一緒に、飛行機に乗って、無事日本へと戻ってきたのだった。


あのテントでの出会いの後、戒斗には大まかな事情を説明した。
異世界のことは無論言わなかったが、賢護は自分がやるべきことを見つけたということ、今後は柚月とともに行動するつもりだということなどを報告した。

戒斗は浮世離れのしたところのある、芸術家肌の大物らしく、この話に動じる風もなく、がんばれよと賢護の背中を押してくれた。

折りしも書き溜めていた作品がある程度の数になり、どこかで個展をやろうと考えていた彼は、みなで日本へ一緒に行くことを提案した。

最後に彼がしてあげられる、彼なりの精一杯の餞(はなむけ)のつもりであった。
賢護と柚月は、この好意におおいに喜び、ありがたく甘えることにした。

世界を放浪しているために、あちこちくたびれかけたような格好をしているものの、戒斗はかなり売れっ子の絵描きで、それなりに蓄えもあるらしく、二人分のチケットも気前良く取ってくれた。

柚月は飛行機に乗ったことはあるものの、国際線には一度も乗ったことがなかったので、内心とても胸を高鳴らせたのだった。

すわり心地の良いいす、おいしい機内食、退屈しないようにとおかれたDVDなどの豪華な設備の数々。

柚月はそれらを思い出して、うっとりとした。

「柚月チャ~ン、おいてくぞぉ」

思わず立ち止まってしまった柚月に、賢護が軽く声をかけ、彼女は我に帰った。

「あ、ま、まって!」

柚月は慌ててタラップを降り、ゲートへ向かった。

更新日:2008-12-19 19:18:05

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